「毒」と抗がん剤

国立科学博物館で開催されている特別展「毒」に行ってきました。動物、植物から人工毒まで自然界に存在するあらゆる毒に関する展示会です。展示総毒数は250点とのことで、怪しくおどろおどろした毒の世界を堪能してきました。

毒といえば抗がん剤の多くも、もともとは毒から作られたものです。例えば血液のがんである悪性リンパ腫は主に3種類の抗がん剤を使用して治療しますが、そのうちの2つは他の生物が作る毒から作られたものです。ひとつはビンクリスチンという抗がん剤ですが、これは有毒のツルニチニチソウという植物から抽出されたアルカロイドです。もうひとつのドキソルビシンは放線菌が産生する他の菌を殺す成分から得られた抗生物質です。どちらも効果の高い薬剤ですが、毒性も非常に強く、ビンクリスチンには神経毒性、ドキソルビシンには心臓毒性があります。ビンクリスチンを使用された患者さんの中にはかなり長い間しびれを訴える方がおり、ひどい時には箸が持てなくなることもあります。ドキソルビシンでは使用量が一定量を超えるとかなりの頻度で心臓毒性が出ます。こうした毒性はがん細胞だけでなく正常の細胞にも抗がん剤が作用してしまうために起きるからで、これを回避するために、がん細胞だけに効果を示す抗体薬や分子標的治療薬が最近盛んに開発されています。こうした薬剤は慢性に経過する白血病やリンパ腫には劇的な効果をもたらしますが、急性白血病や急速に進行する悪性リンパ腫に対しての効果は限定的で、今でも毒由来の抗がん剤の使用なしには治癒は望めません。抗がん剤の効果と毒性は紙一重で、毒性をできるだけ出さないように毒を使いこなす技が求められますが、それを支えているのが毒性を正確にモニタリングする臨床検査です。

国立科学博物館の特別展「毒」のポスターの前で指を指す男性。展示は動植物や人工毒に関する内容。

メッセージ一覧

ページの先頭へ戻る