エイズと新型コロナウイルス
- 教授
- 小川 一英
- おがわ かずえい
- 血液検査学、血液内科学、白血病細胞学
これを書いている12月1日は世界エイズデーです。日本で初めてHIV感染者の報告があったのは1985年でしたが、それから2年後、神戸市の日本人女性のHIV感染者が実名報道されるなど、メディアは徐々にエスカレートし、日本中がエイズパニックに陥りました。当時はちょっとしたことで感染すると勘違いされ、メディアも大いに煽ったため日本中が差別と偏見で満ち溢れることになりました。何だか今の新型コロナの報道のようでした。私が医師になった頃の話です。それはエイズが当時不治の病であったからで、実際に世界中で多くの患者さんが亡くなっていました。間もなくAZTという薬が使用できるようになり、私も数名の患者さんに使用しましたが、残念ながら効果は一時的でした。しかし、それから数年して新たな作用機序を有する薬が開発され、複数の薬を組み合わせて使用することで効果が著しく向上しました。今では1日1錠薬を飲むだけで体内からウイルスがいなくなり、普通の生活ができる時代になりました。ここ数年、私の患者さんにもこの感染症で命を落とした方は一人もおりません。HIVは新型コロナウイルスと同じRNAウイルスです。このHIV治療の研究成果が、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬開発に応用されており、既存の薬以外にもウイルスを劇的に死滅させることができる化合物もすでに見つかっています。本学に入学した学生さんがコロナを心配することなく学生生活を送れるようになることを願うばかりです。もうしばらくは我慢の日々ですね。
