福島県立医科大学 研究成果情報

2019年度日本薬物脳波学会奨励賞(令和元年7月受賞)(2019-09-02)

統合失調症者の聴覚自動識別機能に対するオキシトシン点鼻薬の効果

落合 晴香 (おちあい・はるか)
医学部 神経精神医学講座 助手
        
研究グループ
落合晴香、菅野和子、星野大、和田知紘、刑部有祐、堀越翔、志賀哲也、三浦至、矢部博興

今回の受賞について

日本薬物脳波学会


 薬物の脳波変化が薬物の作用と密接に関係していることから、脳波変化による薬物の分類が試みられ、脳波変化の類似性から、作用未知の薬物の中枢作用予測が可能になり、新薬開発の一つの手段になるのではないかという考えのもと定量薬物脳波学という新しい学問領域が創設されました。1980年にはベルリンで国際薬物脳波学会が創設され、同学会は2年に一度、ヨーロッパを中心に総会が開催されています。また、日本では1990年に日本薬物脳波研究会という名称で発足し、以後毎年総会が開催されております。1997年に本研究会が「日本薬物脳波学会」に改組された後も、薬物の脳波に及ぼす影響についての研究発表と活発な討論が行われてきました。

賞について


 日本薬物脳波学会における優れた発表に対して授与されるものであり、若手会員の研究を奨励し、斯学の発展に寄与することを目的とする。

概要

 統合失調症の幻覚妄想などの精神症状に対しては、薬物療法や心理療法、電気けいれん療法など有効な治療法が存在します。しかし、進行性の認知機能障害に対しては十分に有効な治療法が確立されていません。認知機能低下については、患者さんの社会生活に影響を与える部分であり、この障害を改善させる薬の開発が今後期待されています。近年、オキシトシン点鼻薬が統合失調症の社会機能や表情認知、臭覚識別機能を改善させると言われており注目が集まっています。

 そこで本研究では、オキシトシン点鼻薬による聴覚識別機能に及ぼす影響を、事象関連電位(ERP)と呼ばれる思考や認知の結果として計測された脳の反応から推定することを目的としました。ターゲットしたERPは、無意識的な識別機能を反映するミスマッチ陰性電位(MMN)で、統合失調症の認知・社会機能を反映するといわれています。

対象者は健常人・統合失調症でそれぞれ無作為にオキシトシン群とプラセボ群に割り付け、点鼻薬投与前後でのMMN測定を行いました。

 結果は、健常人ではプラセボ群に比べてオキシトシン群で潜時が有意に短縮していました。この結果から、オキシトシンが聴覚識別の神経処理過程を加速させた可能性が示唆されました。一方、統合失調症では明らかな有意差は認められませんでした。

 今後はオキシトシンの投与量や投与回数等を変更し、オキシトシンの有用性を詳細に検討していきたいと考えています。


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