福島県立医科大学 研究成果情報

米国科学誌「Journal of Thoracic Oncology」 掲載 〔平成29年9月〕(2017-09-20)

Osimertinib for Epidermal Growth Factor Receptor Mutation-Positive Lung Adenocarcinoma That Transformed to T790M-Positive Squamous Cell Carcinoma

T790M陽性扁平上皮癌に形質転換したEGFRm陽性肺腺癌に対する、オシメルチニブの使用経験

岡部 直行 (おかべ・なおゆき)
呼吸器外科学講座 博士研究員
        
研究グループ
岡部直行、髙木玄教、峯 勇人、深井智司、峯村浩之、鈴木弘行

概要

論文掲載雑誌:「Journal of Thoracic Oncology」(10月号:2017 Sep. 20) 2006年1月に創刊した、国際肺癌学会(International Association for the Study of Lung Cancer;IASLC) の公式雑誌です。 同学会は1974年に設立され、100カ国以上6,500名の会員を有し、肺癌の領域ではトップクラスに位置しています。 原発性肺癌のうち約30%程度の症例ではEGFR遺伝子変異を有し、発癌のメカニズムのひとつとなっていることが知られております。このような症例に対して分子標的治療薬であるゲフィチニブ(イレッサ®)をはじめとするEGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)を投与することで、良好な治療効果が得られるようになり肺癌治療は飛躍的に進歩を遂げました。しかしながら、ほぼ全例で様々なメカニズムにより耐性を獲得することが明らかにされ、耐性の克服が今後の課題とされています。このような背景のなか、EGRF-TKIに対する耐性獲得のメカニズムに関する研究が、精力的に進められており、耐性遺伝子T790M変異の出現や、他の遺伝子の増幅、小細胞肺癌への形質転換など様々報告されています。 最近ではEGFR-TKI耐性のメカニズムの一つである、T790M遺伝子変異を有する症例に対して劇的な治療効果を発揮するオシメルチニブ(タグリッソ®)が開発され、実臨床で使用されるようになりました。このため、EGFR-TKI投与後に耐性を認めた肺癌に対しては再生検を行い適切な治療を行う必要性が生じています。ただ、再生検は患者さんへの侵襲の問題やアプローチの困難さといった点もあり、まだ一般的とはいえない手技でもあります。 このような中、我々のグループでは以前から再生検を積極的に行い、検討を進めて参りました。 本例はEGFR-TKI耐性を認めた肺腺癌に対して再生検を施行した結果、扁平上皮癌への形質転換を認めたと同時にT790M遺伝子変異が認められた非常に稀な症例の報告です。 肺腺癌の扁平上皮癌への形質転換の報告は世界で4例のみ報告されており本症例が5例目です。さらにT790M遺伝子変異も認めた症例は極めて稀でありますが、本例では新規薬剤であるオシメルチニブを投与したところ治療効果が認められたという点において世界で初めての症例報告となります。我々のグループでは今後も同様の検討を進め、更なる耐性メカニズムの解明によって、より良い治療を患者さんに届けることができるよう努力を続けたいと考えております。

(岡部直行)


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