福島県立医科大学 研究成果情報

日本放射線腫瘍学会 第11回 阿部賞(2014-12-12)

「放射線治療の高度化・個別化のためのトランスレーショナル・リサーチ」

鈴木 義行 (すずき・よしゆき)
放射線腫瘍学講座 教授
        

今回の受賞について

阿部賞は、公益社団法人日本放射線腫瘍学会が年1回授与する賞で、放射線治療の高度化(臨床研究、生物学的研究ならびに物理学的研究などを含む)に関する研究をした者で、応募者の中からただ一人選ばれる賞です。

(受賞写真左) 鈴木義行教授

 

12月11日~13日 横浜市にて行われた第27回学術大会にて、受賞式と受賞講演が行われました。

概要

腫瘍細胞の放射線への感受性は、その遺伝子的背景や腫瘍周囲環境、抗腫瘍免疫などの生物学的要因により大きく変化します。
1990年頃からの分子生物学の急速な発展により、癌遺伝子、腫瘍幹細胞、抗腫瘍免疫など、放射線感受性に影響する多くの重要な因子が発見・解析されてきました。しかし、in vitroで確認される現象が実際の臨床(人体内)での現象と相違があることは稀ではなく、これらの生物学的成果を放射線治療に応用し予後を改善するためには、臨床症例で検討・確認することが重要です。そして、放射線治療において長らく未解決であった疑問点を解明することを主目標として研究を進めてきました。

放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター病院 在職中には、子宮頸癌患者の腫瘍組織検体を用い、細胞周期関連因子(p53、p27、p21など)やホルモン受容体の発現、アポトーシス関連因子、細胞増殖マーカー(MIBI)、などと放射線(X線、重粒子線)治療効果との相関について明らかにしました。
さらには、腫瘍内の酸素圧を針型のポーラログラフィー電極で測定することにより、X線治療によって腫瘍内の酸素圧は1週間以内に有意に上昇すること、腫瘍内の酸素圧が低い症例で局所制御率が著明に低いこと、重粒子線治療では腫瘍内の酸素圧の高低に関わらず局所制御率がほぼ同じであることを世界で初めて報告しました。
群馬大学大学院医学系研究科に移った後は、マサチューセッツ総合病院/ハーバード大学での留学期間も含め、脳腫瘍・婦人科腫瘍の腫瘍組織検体を用い、P13K/AKT経路の活性化/発現やSurvivinの発現が有意に予後と相関すること明らかにしました。
近年では、放射線治療による腫瘍特異的な抗腫瘍免疫誘導、生体の免疫能が放射線治療の局所効果に与える影響等について研究を進め、化学放射線治療法が施行された食道扁平上皮癌患者において、約40%の症例で化学放射線治療により腫瘍特異的抗原を認識する細胞障害性Tリンパ球が増加すること等を明らかにし、放射線治療と免疫細胞治療の併用治療により予後が改善する可能性があることを臨床的に明らかにした世界初の報告として、2012年に Cancer Research誌 に発表しました。これらの研究成果は、放射線治療における長年の生物学的疑問点の解明の一助となるものと自負しています。

〔今後の展開〕
臨床試験としてがん患者の治療を進め、同時に得られる臨床検体(血液、腫瘍組織、など)を用いたトランスレーショナル・リサーチを進め、数年内に先進医療の申請を行う予定です。臨床試験の結果に、さらに、in vitro 、in vivoの研究成果を組み合わせ、放射線治療の新たな併用療法として、「免疫放射線療法(Immuno-Radiotherapy)」の確立を目指しています。

(鈴木 義行)


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