菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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103.夢を持て、しかしいきなり夢は実現しない

学生には時々話していたことですが、「High Hopeで頑張れ」ということを学生誌にも書きました。勿論、医局員の研修時代には正に夢を持って頑張らなくてはなりません。しかし最近、危惧することがあったため、敢えてここで医局員向けの「High Hope」を語ってみます。

夢は持たなければなりません。しかし夢は直ぐには実現しませんし、夢に辿り着くまでには幾多の挫折や困難があります。夢を持つのは良いのですが、その夢を自分の目線のところに置いて、夢を適える為の色々なやらなくてはならないことは必ずしもやらずに、いきなり夢のレベルで物事をやろうとしている人間が時々見受けられます。少しのこと、あるいは時々は自分の夢の通りに物事が動いていくかも知れません。しかしそれは築き上げたものではないので、文字通りすぐに幻想になってしまいます。なかなか旨く言い表せないのですが、やはり夢を持つのは極めて大事で、持たなければなりませんが、その夢を実現する為にはステップが必要です。

夢を持つことがいかに大切かについては、色々な先達が色々なことを言っています。それをここで述べてみたいと思います。映画「Fieldof Dreams」は、話題になった映画で観た方も多いと思います。その中での主人公の台詞に「夢を持ち、努力すれば夢は向こうから近付いてくる」という台詞がありました。この言葉は、夢を持つことの重要性と、そのためには目の前にある一つ一つのことをコツコツとこなす事が大事で、そうすることにより何時の間にか夢は実現するという2つの意味を持っているのだと思います。また、何かになるという道はなく、ただ目の前にあることを常なることのように、淡々とこなすことによって道が出来るということも言われています。ただどのような過程を経て夢が実現されるかは誰にも分かりません。また、分かったらつまらないものでしょう。誰にも分からないからこそ却って夢が持てるのではないでしょうか。

自分自身のことを考えてみると、現在私は大学の教職に就いています。しかし、5年前私は僻地のベッド数70に満たない病院長でした。その時、現在の自分を考え得たでしょうか。否です。更に遡ること3年前、東京の1000床を有する病院で働いていた時に、尾瀬の近くの病院に赴任することを予想し得たでしょうか。否です。更に遡って3年前、外国で整形外科医として働いていた時に、3年後に東京のど真中の病院で働いていることになると考えたことがあったでしょうか。これもまた否です。

このように医師としての歩みをとっても、新幹線の指定席券は無いのです。だからこそ世の中はfifty fiftyで、自分に都合良く「50%も可能性がある」と希望が持てるのです。決して「50%しか可能性がない」とは考えなくて良いのです。医師しての人生はいくら望みを高くして懸命に努力し、他人に助けられて生き抜いても、自分の思ったことの半分も出来ないことが実情です。だからこそ最初に抱く希望は高く持つべきです。若い時こそ、若い人程「High Hope」を心に抱いて頑張ってみるべきです。とんな道が先に待っているのか自分でも分かりません。だからこそやり甲斐のある医師の人生なのではないでしょうか。

最後に似たようなことを言っているチャーチルの言葉を引用します。「楽天家はどんな災いの中にも好機を見るが、悲観論者はどんな好機にも災いを見る」。お互い夢を持たなければなりません。しかしその夢はいきなりは実現しませんし、どう実現されるかも誰も分かりません。目の前にあることを淡々と一つ一つこなすことによって、何時の間にか夢に近付くのではないでしょうか。

 

 

 

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