菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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97.世の中には“ただ”という事はない

医局員は業務上、或いは医局行事の為にMRや医療機器メーカーの人達から多大な恩恵を受けています。但し、その恩恵は慈善団体からの寄附や労力提供ではないのです。世の中には奉仕団体を除けば“ただ”ということはないのです。否、ボランティア活動や奉仕団体でもその起源を辿れば、欧米では多かれ少なかれ「償い」とか「代償」というものにぶつかるのはよく知られていることです。

日本には契約という概念が稀薄です。それはむしろ、他民族に比べて誇り得る点ですが、その代り我々は「阿吽の呼吸」で分からなければならないのです。以前にも書きましたが、金銭や労務提供はその人間や組織が素晴らしいから提供されるのではありません。出す方は何等かの見返りを期待しているのです。それがある一定の枠を越えたものが賄賂なのです。日本ではそれが諸外国と最も異なる点です。

世話になったらそれに対応する見返りを与えるべきです。例えば、MRの人達に皆が頼んでいるから、あるいは教授が頼んでいるから私も頼むという気持ちで物を頼まれたら、頼まれた側は迷惑です。頼む以上はそれ相応の責任をとる覚悟が必要です。それでこそ信頼関係が契約関係と同様な役割を果たして世の中が円滑に動くのです。物心両面に渡る貢献いうのはその行為そのものが代価になっているのではなくて、その行為によって特殊な関係を作るという事が諸外国の契約関係との違う点です。

世の中に“ただ”というものはありません。自分で受けた恩は、何等かの形で相手に返してあげないと相手の立場もなくなる訳です。例えば、MRや医療機器メーカーの営業マンの人は、上司から医局に対して何等かの貢献をする場合にはその許可を貰っている訳です。その貢献に対して見返りがなかったら、その組織内での彼等の立場は危ういものになります。そういう事を考えて行動して下さい。

 

 

 

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