公立大学法人 福島県立医科大学 ダイバーシティ推進室


ロールモデル集

花山 千恵 麻酔科学講座 助手

花山先生

 私は医学部卒業と同時期に結婚し、臨床研修終了目前の、研修2年目の1月に長女を出産しました。計画外のタイミングでの妊娠・出産でしたが、結果的に自分にとってはベストな時期だったと、生まれてきた娘に感謝しました。
 出産時期は働く女性にとって大きな悩みの種です。私も「いつがベストか?」と何人もの後輩にきかれ考えましたが、結論、良いタイミングなどありません。いつ妊娠しても出産しても、少なからずキャリアの妨げになるでしょうし、出産後も自分の生活と子育てとを切り離すことはできなくなります。若いうちに学びたいことは膨大で、知識を形にするために取りたい資格は次々に出てきます。時間を気にせず仕事に没頭すればこその経験も積んでおくべきです。が、存分に仕事をしてからの妊活では「若いうちに出産しておくべきだった」と悔やむ可能性も大きいのです。逆に考えれば、出産はいつでも良いのではないでしょうか。授かった時こそがベストなタイミングなのだと、私は考えるようにしています。
 私の場合は、わずかに研修の必要日数を残して産休に入りました。そのため翌年の3月に麻酔科の研修医として復帰し、4月からは麻酔科の医局員として勤務するという方針としました。経験の浅い研修医が、まる1年仕事から離れることの不安は大きく、仕事に復帰する際に「麻酔科医」としてではなく「研修医」という立場で仕事を再開するできることは、少なからず気持ちの負担を軽くしてくれました。また仮に、完全に研修を終了し、医局に所属することもなく無所属で休みに突入してしまえば、復帰の不安からいつまでも仕事が再開できなくなったかもしれません。更に私が恵まれていたと感じたのは、子供が生まれる前提で入局先を検討できたことでした。「小さな子供がいる」という(悪?)条件があっても、当時の教授始め医局の先輩方は私を歓迎してくださいました。そして折に触れ、家庭のことを気に掛けていただきながら働けたことが、今まで仕事を続けられている第一の要因だと思っています。
 しかしながら、医局の中で一番下っ端の私が経験しなければならないことは多く、当直業務もその1つでした。先の理由で仕事に復帰したときには娘も1歳2ヶ月になっており、完全母乳だった授乳も終了していました。復帰当時、夫は国内留学中で遠方にいたため私は実家に転がり込み、母が対応可能な水曜日に当直を当ててもらうことで、子育てをしながらも夜中の臨時手術の経験を積むことができました。
 二人目が生まれたのは娘が5歳の時でした。子供が二人になると、子供達(うち一人は赤ちゃん)を世話する際の負担は激増します。自分以外の大人に預けるとなるとさらに混乱を極めることになり、二人目出産以降私は当直業務から外れさせていただいています。また、この時には私は助手の立場になっていたため、時短勤務制度を活用することができました。復帰後1年間は1週間あたり2.5日分、次の1年は3日分と徐々に勤務時間を延ばし、3年目以降はフルタイムで働いています。時短勤務制度が導入されているのは、当学の大きな魅力です。そして時短勤務中でも、外来のみなどと業務を制限することなく、その時々の私に必要な業務や症例を経験させてくださった教授や医局長には感謝に絶えません。
 現在長女は小学5年生、長男は5歳の年中児です。私は麻酔科の専門医となり、手術麻酔の他に緩和ケアの勉強をする機会を頂いています。今では娘は一人でお留守番もしますし、夏休みなど学童に通う時には自分でお弁当を作ります。息子は保育園に持って行く着替えなど、自分で準備しますし、夫も年々家事の腕を上げています。仕事の面では、自分自身の成長の遅さに愕然とすることも多いものの、遅いながらにも経験と知識は少しずつ蓄積され、様々な局面に落ち着いて対応できるようになってきました。大学病院にいると臨床以外の研究・教育等の業務をこなす必要があります。そういった方面の努力が今後大いに必要なのですが、例えば学会で発表するためのポスター作成も、入局したての頃よりはずいぶんスムーズにできるようになりました。
 仕事と家事・育児、双方をこなすのはもちろん大変です。が、「大変」のレベルは年々小さくなっているように感じています。
 医師の仕事は、やりようによっては1日24時間で足りないくらいのタスクを作り得ます。一方で母親というのも、一日中家族のために働く役回りです。両方を完璧に両立など不可能です。仕事も家事・育児もそれぞれ理想の60%程度しかできないと、中途半端さがもどかしくなります。でも、両方合わせたら120%です。すごい!そうやって割り切って、「ま、いっか」を合い言葉になんとかやり過ごしてここまできました。特別輝かしい研究成果を出したわけでもなく、子供達を神童に育て上げているわけでもありません。が、毎日が充実して楽しく、家族と一緒に笑えているので良いと考えています。
 これから妊娠・出産を経験される医療者の皆さん、もしくは今その最中にいる皆さん、いずれ「大変」さは小さくなります。ほんの数年後です。ふっと一心地ついた時に、誇れる仕事をしている傍らで、我が子の成長を見守れるという贅沢を、噛みしめて下さい。とても幸せな瞬間です。皆さんが働くことは、皆さん自身や家族にとっても、社会にとっても大きなメリットです。自分のペースで、まずは続けていきましょう。



令和4年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和3年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和2年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

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