ロールモデル集
見城 明 看護師特定行為研修センター 教授

私は、平成4年(1992)に本学を卒業し、医師となり30年が経過しました。医師としての活動が継続できているのは、多くの方々のご指導・ご支援のおかげであると感じております。
医師になってからの30年間を振り返ると、社会環境は大きく変化してきました。高齢者数の増加に伴い医療における業務量の増加が顕著となり、医療の高度化・専門分化がより一層進むとともに、政策として医療者の働き方改革が施行され、労働者としてワークライフバランスを意識しつつ、将来的に持続可能な医療提供体制をいかに構築するかが課題となっています。時代の変化に対応し、医療者として活躍するためには、多職種がそれぞれの専門性を活かし、かつ協働することが重要であり、【チーム医療】がキーワードになると考えます。
私は、現在、肝胆膵・移植外科を専門としています。外科の講座に入局後、本学で臓器移植の診療を経験した後、2003年に生体肝移植のハイボリュームセンターである京都大学病院で短期の研修を経験させていただきました。症例数の多く、他施設からの医師を多く受け入れている施設で、同世代の移植医と一緒に診療できたことはとても有意義でした。一方、医師が担う業務に関しては、薬剤調整や時間外での薬剤の搬送などは医師が担う業務であり、本学とほぼ同じかむしろ多かったのではないか感じました。
続いて、2007年に米国のウィスコンシン大学移植外科で研修する機会をいただきました。移植手術の場合は定時外での実施が多いのですが、周辺の業務はコーディネーターという職種の方が全てマネージメントしており、臓器摘出チーム、移植医の役割は明確でそれぞれの業務に集中できる体制でした。また、カンファレンスのみならず、日々の回診でも、医師(外科、内科)、看護師、薬剤師、栄養士、病棟事務などが一緒に情報共有や意見交換を行い、治療方針の決定後は、各職種の専門性を活かして介入していました。また、医師の業務を支援するPA(フィジシャンアシスタント)が存在し、移植外科医は、移植手術に専念できる環境が整っていました。そして、17時前には業務を終えて、気がつくと病棟には夜勤者のみとなっていました。米国と日本の医療者の働き方の違いはなぜ生じるのかを考えるとともに、医療をチームとして提供する体制の一例を学ばせていただく貴重な機会となりました。
本邦ではその当時、医師の過労死や業務過多に伴う患者死亡につながる医療事故の報告が散見されており、医療提供体制に対する不安が社会問題とされていました。それを受けて、将来的に質の高い医療を提供するため、2009年に医療における規制改革が閣議決定されたとお聞きしています。医療における規制改革に関する検討の結果、各医療者の専門性を活かし業務範囲の見直しを図り、相互に連携をとりながら医療を提供すること、「チーム医療」の重要性が示され、2015年に看護師の特定行為研修制度が創設されました。特定行為研修制度では、看護師には医師の業務の一部をシェアすることと各医療職種との連携を担う役割が求められています。
本学では、福島県の医療環境(高い高齢化率、医師不足・偏在)を考慮し、地域包括ケアシステムの構築、医療の質の向上を目的に県内での特定行為研修の実施が必要であると判断し、2017年に看護師特定行為研修センターを開設しました。私は、本学での研修開始と同時に研修に係り、2021年度末までに110名の受講者と関わってきました。研修を受講した看護師は、臨床経験豊富な方がほとんどであり、所属施設において協働する医師や他職種の医療者とのコミュニケーションが良好で、研修の目的が明確です。所属施設での理解が進み、研修終了後に活動の幅を広げている方もおられますが、一方では、施設内での理解不足や勤務調整が困難で活動が制限されている研修修了者も多いと伺っています。
一方、医師の働き方改革の関連法が、2024年より施行されます。医師も業務の見直しを図り、継続して質の高い医療を提供するための組織の変革が求められています。そのためには医療機関の特性を把握し、必要な人材を育成し、各職種の専門性を理解し協働する「チーム医療」の実践が不可欠です。特定行為研修を終えた看護師の活用もその一つであり、ダイバーシティ&インクルージョン(D & I) −多様な価値観を認め合い、それを受け入れて個人の特性と能力を発揮しうる環境整備と仕事と生活の調和を実現すること−に通ずると考えます。
自身のキャリアを活かす環境を作るには、他職種とうまく協働することが欠かせません。組織の意識改革が重要ですが、是非とも個人が当事者となり、D & Iへの理解を深めてみてください。
令和4年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~
(所属・役職は執筆当時)
令和3年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~
(所属・役職は執筆当時)
令和2年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~
(所属・役職は執筆当時)