公立大学法人 福島県立医科大学 ダイバーシティ推進室


ロールモデル集

石川 陽子 保健科学部作業療法学科 講師

石川先生

 実はキャリアについてあまり深く考えた経験がなく,ただ目の前のことをこなしてきたタイプです。明確に行きたいところがあって前進するのではなく,歩む中で「どっちかというとこっち?」と意志をもって流されながら,「最終的についたところが行きたかったところだろう」と進んできたライフデザインとして知っていただければと思います。

<意志をもって流されること>
 元々は医療人になりたいという思いではなく,人を理解したい・知りたい,そのために必要なことを学びたいと思って大学進学を考えていました。数ある大学・数ある学問の中から,ただ一つを選んでこれだけを目指す!という方もいらっしゃると思いますが,私は「したいこと」と「実際にできること(浪人はできない,この偏差値でいけそう,お金のかからない地元の国立大学,などなど)」との帳尻を合わせるべく,とにかく色々と調べました。結局,実は何なのかあまり知らなかった「作業療法」の道を選びました。当時は,人を理解することができれば学問はなんでもよかった。でも自分で見つけた,自分の心の琴線に触れた道です。キャリアデザインのスタートラインは随分とふんわりとしていましたが,今思えば,「したいこと」にはこだわりましたが「実現する方法」にはあまりこだわりがなかったのかもしれません。
 結論として,私の「人を知りたい・理解したい」という気持ちと「作業療法」は随分マッチしました。流されたにしろ,「したいことをしたい」という意志は譲らなかったからだと思います。大学を辞めることも,進路変更をすることもなく,今も興味深く学び続けることができています。ただ,職業人としての「理想の作業療法士,働き方,生き方」を具体的に考えずにキャリアをスタートさせたことで,随分と途中で悩みも多かったのが正直なところです。仕事のこと,仕事以外のこと,目の前に分かれ道が現れてからその都度悩み,最良と思う側の道を選び,進んできました.時間がかかっても,最初から自分の目指したい具体的なあり方を明確にしていれば,キャリアの方向性について悩む時間も少なかったかもしれません。
しかし,さまざまな経験を経て今思うのは,「自分の理想的な職業人,働き方」をあまり具体的ではない形に留めおいたからこそ,理想と現実のギャップに苦しみすぎずに,今も働き続けていられるのかもしれないということです。世の中には自分では抗えない出来事も多くあり,思った通りに進めないこともたくさんあります。そんな時,絶対に行きたくない方向にはいかないことが重要ですが,ある程度流されてしまいながらすすむのも,長く働き続けるには必要なことかと考えています。

<常に前進していると感じること>
 ライフイベント上,自分の考えだけでは時間を調整できない瞬間は必ずあります。そんなとき,どうしても取り残されたような,進めていないような感覚に襲われました。そのような中で,停滞していない,毎日何かを得ていると認識することが私にとって重要でした。
 私の場合は,イベントそのものではなく経験している感情に焦点をあてることがヒントとなりました。これまでの人生の中で起こったイベントは語り尽くせませんが,それぞれのイベントにはそれぞれ感情が伴います。経験したことのないくらいの喜び,これ以上ないと思うほどの悲しみ,うまくできなくて自分の能力を恨んだり,人のために尽くしたり,やろうとしたことをついサボってしまって自分に自分で言い訳をしたり,様々な感情の経験が常にありました。
 「作業療法」に関わらず,「対象者中心の医療」では,唯一の存在であるその人を理解することが必要です。医療者としての私の目の前にいるその人が,これまで何を経験してどのように感じ,現在のその人として存在しているのかを理解すること。ひょっとすると,私が今こうやって経験しているこのイベントやそれに伴う感情は,全く同じではないにしても,少しでも対象者も感じてきた・感じていることかもしれない。私の全ての経験は,いつか出会う対象者を理解することにつながるかもしれないと感じたことが,自分は日々停滞しているわけではない,前進していると感じられるきっかけとなりました。

 これはあくまで私個人の経験です。皆様のこれまでの経験から,より自分らしいライフスタイルを構築されていると思います。しかし,もし迷った時には,私を含め,多くのロールモデルに出会い,何かヒントが得られますようお祈りしています。



令和4年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和3年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和2年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

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