公立大学法人 福島県立医科大学 ダイバーシティ推進室


ロールモデル集

佐藤 薫 麻酔科学講座 講師

佐藤先生

 私は石川県で生まれ育ち、国公立大学の2次試験の願書を提出する直前に福島医大の受験を決めました。それまでの他大学での受験面接で、女性でありながら医師として仕事をしていくことや結婚・出産について聞かれることに嫌悪感がありました。男女差別だと感じたからです。予想に反して、福島医大の面接では好きな本はなんですか?くらいの面接でした。入学してみると、同級生全体の女性の割合は3割で、多浪生もそれなりにおり、福島医大では性別や年齢で差別されることはないのだと感じました。
 最近のような臨床研修体制はなく、大学を卒業する時の進路はかなり迷いました。結局のところ、相談した同級生から「自分がやりたいことをするんだったら、やっぱり母校が一番」という言葉と、当時麻酔科の先輩からのお誘いもあり、麻酔科学講座に入局を決めました。
 卒後4年目に結婚し、その翌年に長男を出産しました。その頃は大学病院に勤務していましたが、女性医師が妊娠・出産し仕事に復帰することに関心を持って見ていたわけではなく、給料のことや産休を始めとする保障について何も知りませんでした。当時の私の大学での身分では保障された産休育休期間がないと知ったのでとりあえず労働基準法を調べ、出産予定日の産前6週から仕事を休むことに決めました。無給になるため社会保険の変更も必要とされました。出産してから子育てしながらキャリアを継続させるためにどうするかを当時の麻酔科の医局長と相談し、臨床よりは研究の方が時間のコントロールがしやすいだろうと考え大学院に入り研究をすることにしました。そして、長男が生まれて6か月後に薬理学講座でお世話になることになりました。当時の薬理学講座には教授を始め、女性研究者が多く在籍されており、また男性の先生達も皆が育児の大変さのあれこれを話し相談できる環境でした。仕事に夢中になりすぎると子供目線の生活のあり方が抜け落ちてしまう私を引き戻してくれました。
 第一子出産の2年後に第二子に恵まれ、その頃に夫のスウェーデンへの留学が決まりました。私はスウェーデンで子育てをしながら、自分も研究をしたいと強く思いました。夫と周りの方のご厚意もあり、私もスウェーデンの大学で研究する許可をいただきました。ところが、スウェーデンに行った頃は長男が1歳9か月、長女が生後6か月であり、スウェーデンの保育園の入所は1歳以上から可能だったため、長男を預けることはできても、長女の預け先がなくて途方にくれました。研究をするのを諦めかけた数か月後に、夫が週一回研究日をくれることになり、その日だけ私は研究をすることができるようになりました。また娘も1歳から保育園に通うことになり、スウェーデンでの研究は納得するまではできなかったもののなんとか形にすることはできました。
 帰国後、薬理学講座で再び研究を継続し、なんとか4年で学位を取得することができました。多数の方からの支援があったのはもちろんですが、自分のやりたいことをあきらめずにぶつかっていったことで少しでも現状を打開できたことが自信となりました。
 大学院修了後は、大学に入る前に漠然と心に抱いていた緩和医療が気になりました。麻酔科で緩和医療ができると知らずに入局したのですが、麻酔科の先輩が宮城県で緩和医療、在宅医療や神経ブロックを学んだあとに福島医大に戻ってきました。当時の日本では緩和医療は始まったばかりでどのようにして緩和医療専門の医師として研鑚していくかという定まった道もありませんでしたが、自分もその道に進みたいと強く思いました。麻酔科の教授からお許しをいただき現在まで約17年間、福島医大で緩和ケアチームの専従医師として仕事をさせていただいています。その間、長男と11歳離れて第三子に恵まれました。そのころには社会も職場環境も以前より、働くママへ優しくなったなと思いました。以前は妊婦健診へ妊婦一人で来るのが当たり前だったのに、夫婦そろってきている人たちの多さにもびっくりしました。働きながら家事や子育ての分担をしている若い医師たちの姿もあり、だれもが仕事をする生活者なのだという意識を強く感じます。福島県立医大でも支援する人や体制が整ってきていることを喜ばしく思います。
 医師もまた生活者ではありますが、独り身でがむしゃらに仕事をしているときには気がつきにくく、結婚し子供ができてはじめて気がつくことが多いのではないでしょうか?医療は当然患者中心であるべきで、仕事が自分のコントロールに及ばないところもあり両立はなかなか難しいものです。それでもこうありたいと強く思う志を素直に表現し、そのためたくさんの人たちを巻き込みながら迷惑をかけることもあるかもしれないけれど、皆様には少しでも自由に自己実現に向かっていただきたいと思います。



令和4年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和3年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和2年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

© 2023 公立大学法人 福島県立医科大学 ダイバーシティ推進室