ロールモデル集
関口 美穂 医学部附属実験動物研究施設 教授

私は、本学を卒業後に整形外科学講座に入局し、2012年から附属実験動物研究施設で仕事をしています。また、3姉妹の母親としての役割もあります。社会情勢からか、仕事と家庭の両立はどのようにしてきたのかと聞かれることが増えていますが、思い起こしてもその日暮らしで、毎日バタバタと必死にこなしてきた感じです。多くの方々から頂戴した言葉が、私を前向きに進むことの後押しとなったことは間違いありません。ここではそれをお伝えし、様々な立場に置かれている皆様のキーワードとして参考になればと思います。
進路の選択は、仕事の大変や目の前にある環境ではなく、自分が真にやりたい進路を自分の意思で選択することが重要です。何を選択しても大変だと思う時が必ずあるので、自分でやりたいと決めた進路であれば、大変な時に乗り越えることができると信じています。
入局2年目に、「なぜ国際学会に行かないのだ。」と上司に言われ、国内の学会での参加歴も少なく、地方会で症例報告をしたレベルでしたが、国際学会に参加し国も言葉も違う先生が集い、英語という共通言語でディスカッションをしたり、休憩時間や懇親会で積極的に情報交換をする姿はすべてが衝撃でした。この経験がリサーチマインドが芽生えたタイミングだったと思います。いつか自分がこのような国際会議で発表することがあるのかもしれないと漠然と感じつつ、いや、無理だろうから自分は発表しないで学会には参加していきたいと思いました。ついに大学院生の時に、研究成果を国際学会で発表する機会が来ました。初めての発表は、ポスター発表を希望していたにも関わらず、英語での口演で採択され(光栄なことなのですが)、「どうしよう」と叫んだことを覚えています。その時の指導教官には、「まずは、自分たちの結果をきちんと理解してもらえるように発表することを目指せば良い」というアドバイスを頂きました。スライドと発表原稿を何度も校閲してもらい、ネイティブに英語の発音のチェックと音読を録音してもらい、何度も繰り返し発表の練習をしました。英語力がないレベルなのに、なぜ調子に乗って演題を出してしまったのだろうと思いながらも、引き返せない状況で真剣に準備を重ねていた時に、「国際学会に行くのは、海外旅行だよね」と言われてショックでした。このような発言をするということは、学会参加の位置付けが旅行気分で、それ以上の収穫を得ることはできない人なのだと残念に思いましたと同時に、自分は能力の最大限を出して発表しようと心に誓いました。
学位取得後に、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室に留学の機会をいただきました。夫が単身でこのラボにて研究をしていたところに、当時はまだ娘が2人でしたが、娘を連れて合流しました。夫と同じラボであっても、私も一研究者として研究活動ができるように、上司がお願いをしてくれていました。幼稚園や学校への手続きで、ラボにはいつ行けるのかと焦りがありましたが、「家族が安定して生活ができることを優先して、それができてから、仕事を始めれば良い」と言っていただき、心配が小さくなり、またラボで仕事を開始できた時には本当に嬉しい思いでした。ボスは、経験の浅い私のデータをみて、「我々は、結果に正直であるべきだ」と信用して、研究に対する姿勢を示してくださり、心から尊敬しています。幼稚園や学校からお迎えした娘をラボに連れていき、実験をしたこともありました。「ラボでしかできない仕事を優先し、論文を読むとか家でもできることはラボにいなくても良い」とも言って頂き、有効に時間を使うことを学びました。それから今でも働く時間の長さではなく、質を高めることに心がけています。留学時代は随分前のことになってしまいましたが、今でも当時の記憶は鮮明で、家族の貴重な時間だったと思います。皆様もぜひ、広い視野での活動を選択して、多くの人に出会っていただきたいと思います。
帰国後は、自分の研究と後輩の研究の指導も任されるようになりました。指導で苦労することもあり、自分が指導していただいていた時もきっと上司も苦労していたのだと思います。「環境や忙しいことを言い訳にしない。」と「はいと言ってやってみる」という助言を受けました。こんなに恵まれない環境では何もできないと愚痴る人は、環境が整っても結局は何もやらないのです。それを意識して周囲で成果を上げている人を見ると、何がやれるのかを考え、少しでも前進することに努め、忙しいはずなのに忙しそうに見えない、ということが見えてきました。仕事面でもそうですし、思い通りにならないことばかりの育児においても同じことと思います。また、「はい、と言ってやってみる」と、思わぬ視界が開け、異なる分野にも共通点があり、相互に役に立つことがあるということに気付かされました。権利や待遇を主張する前に、自分の能力の120%を出す気持ちで常にベストを尽くし、周囲に感謝することで応援してくれる人が現れたり、道が開けることがあると思います。
ぜひ、前向きにがんばってください。
令和4年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~
(所属・役職は執筆当時)
令和3年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~
(所属・役職は執筆当時)
令和2年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~
(所属・役職は執筆当時)