公立大学法人 福島県立医科大学 ダイバーシティ推進室


ロールモデル集

前島 裕子 病態制御薬理医学講座 准教授

前島先生

 私はこれまで農学分野において学位を取得し、基礎研究の立場からずっと研究を続けてきました。修士を取得した時に就職しようと少しだけ就職活動を行いましたが、ふと私も「論文」というものを書いてみたいと思い博士課程に進むことにしました。博士課程に入って論文を書いてみるとすごく楽しくなってしまい、3本の論文を3年間で出しました。
 学位取得後ポストドクターとして自治医大の生理学講座で雇っていただき、一年で運よく助教にしていただくことができました。今から20年前ですとポストドクターがあふれかえっておりなかなか正規のポストに就くのは大変難しいところを助教というポストをいただき、少しでも雇用していただいた大学・教授に恩返しがしたいという思いで、教育も研究も昼夜問わず必死で働き業績を出しました。
 8年間自治医大でポストドクターと助教を務めたところで、縁あって福島医大で採用していただき現在に至ります。

 学位を取得して研究者として大学で十数年研究を続けさせていただいていますが、私が今回福島医大の後輩へ伝えたいことはただ一つ基礎であれ、臨床であれ「プロ意識を持ってください」ということです。これは私たち大学にいる人間だけに言えることではなく、社会全体の若い人達に私が言いたいことです。どんな職業であれ、その仕事で生計を立てるならプロ意識をもって当然です。「プロ」であるというプライドを持ってほしいと思います。

 では研究者のプロ意識とは何か?ということですが私が考えるのは研究者ならば論文を出版することへの限りない執着だと思います。たとえばポスドク、助教であればもらった研究テーマにおいて、出したデータすべてを論文にするくらいの熱意と執着。自分でテーマを考えられるようになれば常にアンテナを張って少しでも自分の研究の質、インパクト、社会気意義を向上させることを考えること。私は自分の出したデータ、論文はすべて自分の子供だと思っています。だから投稿するときには少しでも条件のよい嫁ぎ先(科学雑誌)を精査し、リバイスがかかれば全力を投資してアクセプトまで持っていきます。研究をしても出版しなければ使った試薬、動物、時間、研究にかかわった人の労力と時間、すべてが無駄になります。なぜならその結果は正式な形で公表されないからです。
 現在日本の科学雑誌への論文出版数が先進国の中で年々減少しています。私は、これは大変危機的事態だと考えています。大学の雑務や教育が増えたのが原因ともいわれていますが、これは理由にならないと思います。私は研究者の個々のモチベーションの問題だと思います。
 現在日本においては「ワークライフバランス」の重要性が叫ばれています。基礎研究者には適応外だと思います。なぜなら研究者にとって研究はやりたいからやるもので勤務時間を意識していたら、研究は進まないと考えているからです。基礎研究をこれから志す方は少なからず何かしらの生命現象のメカニズムや社会に役立つ何かを開発したい気持ちがあるからではないでしょうか?その気持ちは研究者において非常に重要なモチベーションとなります。研究を続けていると、途中で必ず壁が立ちはだかります。正直「もーやだ。これ辞めたい」と思うこともしばしばです。しかし、「本当のことが知りたい!」「わくわくする!」というたったこれだけの感情が研究を支えるモチベーションになると私は思います。
 先にお話しした日本の論文出版数の低下は、この気持ちが日本の研究者で低下している現れだと思い危機感を感じています。これから基礎研究者を目指そうとする方にはぜひ覚悟と情熱をもって一歩を踏み出してほしいと切に願っています。

 ここからは特に基礎研究者を目指す女性へのメッセージになりますが、現在女性教員比率の向上という政策が叫ばれていると思います。私も男女共同参画の支援員としてどうしたらよいかをずっと考えてきましたが、結論として基礎研究の世界ではやはり論文を出すことしかないのでは?と思っています。論文がないと女性教員比率を引き上げようにも引き上げられないのです。
 しかし、女性には出産適齢期があり、家庭を持てば家事・育児は避けられません。そこをどうするかです。現在男女共同参画支援室では研究支援員制度がありますが、その制度を使うのも一つの手ですが、ここはぜひ家事代行やベビーシッター制度を上手に使ってはと思います。私の持論ですが、研究を遂行するにはある程度まとまった静かな時間が必要です。例えば休日の午後お願いすれば午後丸まる研究に費やせます。私は研究を続けてきて論文出版までには相当な時間とエネルギーとやり遂げる信念が必要だと思います。また、基礎研究の世界には男女差別はないと感じています。先に論文を出したものが勝ちなのです。論文は決して裏切りません。そういう思いで私は研究を続けて、まだまだ研究者としては未熟ですがそれなりの道を作ってきました。ぜひ女性研究者を目指す皆さんにはライフイベントにくじけずにご自身の知りたいことを明らかにする研究を貫く強い信念を持っていただきたいと思います。
 女性の昇進を妨げる「ガラスの天井」という概念がありますが、研究への強い信念と研究者としてのプロ意識を持つことでガラスの天井は打ち破ることができるのではないかと思います。どうか一緒に福島医大の基礎研究を盛り上げていけたら幸いです。



令和4年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和3年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和2年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

© 2023 公立大学法人 福島県立医科大学 ダイバーシティ推進室