公立大学法人 福島県立医科大学 ダイバーシティ推進室


ロールモデル集

橋本 優子 病理病態診断学講座 教授

●変わった女子学生
 小さい頃、私は少し変わった子で、「お雛様はいらない、大きな鯉のぼりが欲しい」といって、本当に鯉のぼりを揚げてもらっていました。小学校時代は妹とお揃いの赤いグローブでキャッチボールをして過ごしました。また両親も「女の子だから」の理由で私たちの行動を制限することがありませんでした。
 こんな両親の元、お転婆の限りを尽くし、大怪我で本学附属病院への入院をきっかけに医師を目指すようになりました。ただ臨床医ではなく、疾患の本質を研究する「病理学」を学びたい(若さゆえの蒙昧さで、病理学でないと疾患の本質は学べないと思っていた)と考えました。恐る恐る高校の担任に伝えた時も、頭から否定されるだろうと予想していましたが、「女だもの、女房子供のこと考えなくていいから、自分で好きな学問すればいいべぇ?」と目から鱗がおちるような返答を頂きました。(「医学部行くなら結婚はしないのね」という笑えない前提がありつつも、)むしろ女性だからこそ得られる「自由」といった面を指摘された瞬間でした。物事にはいろいろな考え方があるのだと実感しました。
 本学の入試面接は、竹川 佳壽子先生(前 社会学教授)が面接官の一人で、「女性が職業を持ちつづけること」の質問で終始しました。私はかなり印象に残ったようで、入学後も竹川先生と度々お話させて頂きました。
大学入学2日目、オリエンテーションの懇親会で、隣席となった第二病理学(現 基礎病理学)の中村教授に、病理学に興味があると伝えたものの、「女はいらんなぁ」の一言で一蹴されました。でも入部した剣道部の顧問が第一病理学(現 病理病態診断学)の若狭治毅教授で、私は入学早々、「仕事はやめない」「病理学に興味がある」と言い放ったちょっと変わった女子学生になりました。
 それで病理学は胃が痛くなるほど必死に勉強しました。その介あってますます病理が面白くなり、また病理学は臨床への橋渡し領域でもあり、臨床講義や実習も楽しくなりました。
 周りの先生方や友人からも病理や研究に関わる機会を多くいただくようになりました。医学祭の部門で担癌マウスの温熱療法の実験を行い、築地の国立がんセンターへ研修に行きました。全国から集まった切磋琢磨する若い研究医の姿が印象的でした。また輸血部の受付バイトに入ったご縁で、大戸斉 前輸血部教授(現総括副学長)から稀な抗血小板抗体の検出パネル作成のお手伝いをさせていただいたきました。
 卒業時に、大戸教授からは東京での研修を進められ、がんセンターで見た切磋琢磨する研究医の姿が脳裏をよぎりましたが、好きだった血液と病理学を学べる「悪性リンパ腫」の研究にひかれて、第一病理学の大学院に入りました。何もわからない「病理学への思い込み」から、自分で選んだ「病理学」になりました。卒業時に若狭先生からは「雨滴穿岩」の書を頂きました。「続けていくことが大事」と説かれたのだと思います。

● 伝えたいこと:「続ける努力」
 先生方や友人の協力のもと、学生時代に学んだこと、体験したことが現在の私に繋がっています。仕事(技術や研究)や家庭の継続的な日常の積み重ねの延長上に未来があるのだと思います。そして物事を続けていくには、まず「自分で選択した」という覚悟が必要です。
 福島県の病理専門医数は少なく、私は病理医を増やすために日々努力していますが、見学に来る研修医に直接的に入局を勧めないようにしています。病理学を続けていくために「自分で選んだ」という自覚と覚悟が必要です。実際辞められた専攻医の多くが、「病理は時間的に融通が利くと人に勧められた」といった消極的な理由で病理学を専攻されていたように思います。
しかし覚悟があっても、仕事と家庭との両立は生易しいものではありません。物事の優先順位をつけて自分の中での仕事と家庭のバランス、また家族単位での自分とパートナーとのバランスをとることが重要な鍵です。特に女性にとっては結婚、妊娠・出産のタイミングと研修・研究(仕事)の兼ね合いが非常に重要になってきます。急な子供の発熱など、ライフイベントの荒波は自分だけの努力ではどうにもならず、周囲の協力が不可欠です。仕事で、家庭で、子育てでいろいろな面で協力していただける人を少しずつ増やすことが、両立の鍵です。私自身多くの先生方、職員、両親・親戚、友人の協力をいただいて、仕事を続けてきました。その経験を踏まえて、若い職員のワーク・ライフバランスには協力しようと考えています。
 みなさん!どうか明確な目標をもって、実現のための行動を継続し、周囲とコミュニケーションをとり、協力していただける仲間を増やしていってください。

●ワーク偏重のここ数年、気づいたこと
 ここ数年はワーク偏重で、自分さえ何とか頑張ればと無理をしてきましたが、未来の目標がぼやけた感じがしています。どんなに忙しくとも自分のための時間=未来への投資の時間が大事なのだと実感しています。



令和4年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和3年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

令和2年度 ロールモデル集 ~福島県立医科大学の後輩へ伝えたいこと~

(所属・役職は執筆当時)

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