知の体力

私は、仕事の合間を縫って読書や映画鑑賞を楽しんでいます。これらの趣味は他の人の人生を追体験することができます。自分の人生で経験できることには限界がありますが、読書・映画鑑賞を通じて自分が知らないさまざまな生き方を学ぶことができます。他人が経験したことを知ることが自分自身の生き方を客観的に見直すきっかけになって、自分の人生経験を広げることにつながると考えています。

今回、京都大学名誉教授である永田和宏先生が執筆された「知の体力」(2018年発行)という私の好きな本を紹介したいと思います。この本は、日々大学という場で教育するうえでの考え方や生き方のヒントを私に与えてくれた、私にとってのバイブルです。本書の一部を要約すると、私たちのこれからの時間、将来の人生に起こることは、すべて想定外のことです。生きるということは、想定外の事態を、なんとか自分だけの力で乗り越えていかなければなりません。タイトルにもなっている「知の体力」とは、現実の実社会で応用可能な、情報活用の基礎体力であると著者は表現しています。すなわち、これから何が起こるかわからない想定外の問題について自分なりに対処するためには、知識の習得以上に、どう考えればその場を乗り越えられるかという考え方である「知の体力」の訓練が必要であると言っています。さらに、答えがあるとの前提で具体的に何かを解決するためにという目的のはっきりしたものは「学習」であり、具体的な目標を設定しない、もっとはるかに遠い未来に漠然と何かの役に立つ勉強が「学問」であると説いています。私自身も、大学教育の本来の姿は、単に知識や技術を教授するだけでなく、正解の無い問題や想定外の内容にどう取り組むかという自分で考えることができる基礎体力を「学問」を通じて鍛える場所だとつねづね考えており、本書の内容には共感することや、そうありたいと思うところが随所にありました。私は学生との向き合い方や教育方法に悩んだときに定期的に本書を読み返しています。これから大学生になる方のみならず、大学教員にも是非一読して欲しい本です。

私たちは自分の知っていることでしか世界を見ることができず、その経験や知識を応用することでしか、そこにあるものから何かを生み出すことができません。よって、若い人々には、大学生活でさまざまな経験を積んでもらい、学問を通じてたくさん学んでもらい、自分の可能性を自分で摘み取ることなく、一度しかない自分の人生を思いっきり自在に生きて欲しいと願っています。

写真は今の時期に毎年恒例で研究室メンバーで訪れる那須塩原市にある「紅の吊り橋」です。

紅葉が美しい那須塩原市の「紅の吊り橋」と周囲の山々の風景。

メッセージ一覧

ページの先頭へ戻る