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「学長からの手紙」番外編 〜 新聞・雑誌への寄稿文から 〜

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2011年6月25日発行 月刊誌「臨床整形外科」 第46巻第6号

「臨床整形外科」(臨整外)は、医療系学術専門誌出版社「医学書院」より発行している、整形外科領域の第一線の臨床的知識を紹介する月刊誌です。医学界および関係領域で活躍するエキスパートを編集委員等に迎え、学術専門誌としてのクオリティと正確さを堅持しています。
菊地臣一本学理事長兼学長は、編集委員を経て、現在は編集主幹として発行に携わっています。今号で
2010年10月25日発行号 に続き、巻末のあとがきを寄稿しました。

医学書院  http://www.igaku-shoin.co.jp
   (
「臨床整形外科」 紹介ページ) http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/rinseige

あとがき

この時季の、遠目に見える山間(やまあい)の山桜と辛夷(コブシ)が、今年も福島盆地に春が来たことを実感させてくれます。

東日本大震災では、私の勤務地である福島県は地震と津波に加えて原発事故に見舞われ、それは今もなお、収束の目途が立っていません。
風評被害が大人のみならず、子供にまで及んでいます。人心の当て所(あてど)なさに哀しみを覚えます。
当初は、医療従事者を含め多くの方が不安で、浮き足立ちました。
それにしても、私を含めた医療従事者の“放射線"に対する知識は、とても国民を安心させることができるレベルではありません。これだけ原子力発電所を抱えているわが国では、これを機会に医学教育カリキュラムを再検討する必要があることを痛感しました。
この震災に対して、多くの方から御見舞いと御支援を戴きました。紙上を借りて御礼申し上げます。

組織を預かる者として惨禍の前線に居ると、学びの連続です。

「情報の共有化」と「窓口の一本化」の重要性を再認識しました。覚悟はしていましたが、「地獄への道は善意で舗装されている(カール・マルクス)」という箴言(しんげん)も、現実でした。
危急存亡の秋(とき)は、皆善かれと思い思いに意見を述べたり、行動したりします。これは、各自が善意からの行為だけに厄介です。非常時には、肚(はら)をくくって強いリーダーシップを発揮することと拙速(スピード)が大切であることも実感しました。
と同時に、「疾風に勤草を知る(「後漢書」王覇伝)」、先人の叡知を改めて学びました。もっとも、自分自身はというと「身閑(しず)かならんと欲すれど風熄(や)まず(立原正秋)」ですが…。

本号の特集(「腰部脊柱管狭窄[症]に対する手術戦略」)は、超高齢社会にあって、われわれ整形外科医が最も対応を迫られている病態の一つです。
それにしても、整形外科には「症」のつく診断名が何と多いことか、嘆かわしいことです。

出典は忘れましたが、「整形外科(医学?)は、診断名から「症」がなくならない限り科学にはならない」と指摘されています。
われわれは、これからでも遅くありません。もう少し「概念」、「定義」、そして「評価の物差しの重要性」を認識して、それから考え、行動するべきです。なぜなら、国際的に切磋琢磨するにしても協調するにしても、討論するには同じ土俵に上がることが前提だからです。
わが国の整形外科が、臨床の発表において国際的に等身大に評価されない理由の大きな原因の1つはここにあると私は考えています。

日本の四季の移り変わりを実感できるこの時季、木陰で、あるいは雨の音を聞きながら、本誌を繙き(ひもとき)ながら、考えてみてください。

 

 

 

 

( ※ Webページ向けに改行位置等を改変し、転載しております)

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