菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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209.再び問う、愚直なる継続を怠る事勿れ

私は常々、自分に、そして弟子達に長い間言い続けて来たことがあります。
それは、「愚直なる継続」の大切さです。
我々凡人には、集中力の持続など出来る筈もありません。しかし、同じことを継続して行うことは、自分が決心すれば出来ます。No.36 にも記したように、「努力出来ることも才能」なのです。
私は、恩師からのこの言葉を信じて、自分自身を変えることが出来ました。今から振り返ってみると、高校の“汽車通”の3年間を含めて小学校から大学まで無遅刻・無欠席を貫くことが出来ました。継続することが大切なことは、心の裡の何処かに感じていたからに違いありません。只、中にはこのようなことに努力することを揶揄する教師もいましたが・・・。

先日、会議の席上、人間は、凡人でも必ず何事かを成し遂げられることの可能性を無意識のうちに自ら放棄しているのではないかと危惧されることを経験しました。
自らの戒めの為にも担当者に筆を執りました。以下にその概略を記します。
送って戴いたある病院の院内報が良く構成されているので、自分達の院内報の向上の為にそれを担当部署に廻しました。ところが、廻り廻って私のところに来た担当者からの返事は、「良く出来ています。しかしウチでは予算がなくて出来ません」という木で鼻を括ったような返答でした。
組織のそれぞれのトップが、部下のスタッフ、或いは自分の組織を少しでも良くし、その結果、スタッフには自分達が働いている職場に誇りを持ってもらい、そしてそこに集う患者さんの満足度を高める為にはどうしたら良いかという視点からみると、日々同じ仕事を無批判に受け入れ、結局は向上心をなくして、個人としても、組織としても停滞していく典型をみたような気がしました。

私は、先ず、予算がないなどの演繹法的な「何故出来ないか」を聞かされるのではなくて、「どうしたら出来るのか」という帰納法で何故考えないのかということを問いました。
第2に、どんなことにも、人にも、そこから我々は何かを学び取れるのです。そういう姿勢でいる限り、その積み重ねは、数年後には大きな財産を自分や自分の属している組織にもたらしてくれます。そして、そのような上司や師匠の姿勢を弟子や部下が見て育っていくのです。
現場での日々の出来事から何かを学び取って、自分や組織の為に役立てようという前向きな姿勢、更にはどうしたら出来るかという帰納法的な考え方は、組織を日々新たな形にし、躍進を続ける為の最低限の条件なのではないでしょうか。
私自身は、幾つもの医療機関を渡り歩きました。今振り返ってみると、そのことが自分の成長、或いは大きな人との繋がりの輪を与えてくれたように思います。
人間は独りでは生きていけません。自分の所属している組織のスタッフには、愚直なる継続、そして常に何事からでも学ぼうとする姿勢は、忘れてほしくないものです。

(2009.06.26)

 

 

 

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