菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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183. 組織の一体感達成には、グレイゾーンの仕事に参加を

有名小説家の台詞ではありませんが、人間は、一人では生きていけません。周囲に対する気配りこそが、自分自身の評価を高め、組織が円滑に機能します。教授就任十周年を迎えて、色々な御祝いの会を開いて戴いた際の言葉が、自分自身忘れかけていた事を思い出させてくれ、このこともその一つです。

そうしたなかで、私の心に入った話がありました。それは、私が僻地病院に院長として働いていた時です。最初は、手術室もありませんし、手術室専属の看護婦さんももちろんいません。手術の時に、患者さんの入れ替え時に手術室の掃除をしなければなりません。普通、手術に参加してくれた看護婦さんが掃除をしていました。時間節約の意味ぐらいの気持ちで、私も一緒に後片付けをして、掃除をし、ストレッチャーを押して患者の入れ換え手伝い、次の手術に備えました。でも、私の仕事自体は部屋を片付けるという目的では、余り貢献はしていません。しかし、思わぬ効用がありました。

それは、院長としてではなく、医師としての一組織人として看護婦さんと共に部屋の掃除をするということに、周りの職員が共感してくれました。この些細なことが組織の一体感を高め、ひいては組織の機能的な運営に大きく役に立った、ということです。組織というのは、組織を構成している各個人一人一人の仕事の役割を明確化することが、効率良い運営の一つのポイントだと思います。しかし、目的の明確化と共にその境界は細分化され、境界が多くなります。組織が円滑に機能するかどうかは、境界領域の機能がうまく働くかどうかにかかっています。境界領域、即ちグレイゾーンへ両者が互いに手を出し合うことによって、その境界は消失します。これにより、組織の一体感は高まり、機能も数段向上します。そのことが、結局は、各個人の信頼感をも高めることになります。

我々は、どのような形であれ、組織の中の一員であることを免れません。しかも、医師は組織の中で、常にキーパーソンであることが求められます。それだけに、組織人として周囲からの信頼感を高め、組織をうまく機能させる為にグレイゾーンへ積極的に介入して仕事をすることが大切だと思います。

 

 

 

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