菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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165.プロ意識は自分自身で鍛えるしかない

教授就任8年を迎え原点に帰ろうと自分自身努力し、組織に着いた錆を落とそうと努力しているこの頃です。どんなふうにして組織や自分自身を再活性化して行くのか、藁をも掴む思いで書物にも目を通しています。しかし、結局は、教育とは愚直に部下を頭から信用せずに、噛んで含めるように言って聞かせて、プロ意識を育ててやっていくしかないのではないかと思います。

以前の医師としてのマナー No.4「他人への思いやり」 にも書きましたが、他人を相手にするときは相手の立場に立って自分の態度を作らなければなりませんし、環境を整えてやらなければなりません。例えば、前にも指摘したように、医局の温度や湿度は中に居る人の為ではなくて外から入って来る人の為の環境でなくてはならないのです。それは、タクシーの中やホテルの中も然りです。中にいる人の為の温度や湿度ではありません。その為に中にいる人にとっては涼しすぎる、湿度が低すぎる、ということが当然起こります。その時には、中に居る人は上着を着るとか、必要なら膝掛けを掛けて冷えを防ぐ努力をしています。そういう心掛けがプロ意識というものだと思います。蒸し暑い所から入ってきた人にとって、中に居る人にとって丁度良い環境では少しも快適とは感じないのです。このような心配りは、他人様からお金を貰ったり、他人様の力を借りて事業や仕事を展開している人間にとっては当然の行動なのです。

私自身、最近自分に課していたことを1つ止めました。それは、毎朝の水汲みです。私が朝来た時、水を暫く出して鉄分や錆の成分がなくなった頃を見計らって新しい水を入れ、湯沸かし器をセットして廻診に病棟へ行きます。ところが、良かれと思っていることが、結局は秘書のプロ意識を育てていないのだということに気が付きました。8時30分始業ということは、8時30分になったら全てがスタートする訳です。8時30分に全てがスタート出来る為にはどんなことをしたら良いか、例えば、自分は何時に来れば良いかはその人その人の能力によって違います。自分の能力に応じて自分の出勤時間や仕事時間は決まってくるのです。初めに勤務時間があって、仕事の内容は後に来るものではなくて、その逆なのです。

学生のオリエンテーションがある時には、オリエンテーションの開始と同時に学生にお茶を出すのが学生に対する礼儀です。しかし、お湯が沸いていなければそれは出来ません。だとしたら、そのお茶を直ぐ出す為には早めに出てくるのがプロとしての常識です。然るに直ぐ出ないか、或いは出したとしてもそのお湯が前の日から医局で沸いているお湯だったら、それは学生という客に対して礼を欠いています。果たしてこれが心の籠ったプロとしての相手(客)に対するサービスと言えるでしょうか。とてもそうとは思えません。でもそんなことに何時までも気が付かないような人間であれば、それはプロとして失格です。

悲しいかな、私を含めて人間は自分の至らなさは仲々自分では分かりません。しかし、それを他人に指摘されると面白くないものです。自問自答して自分自身を磨いてその動作そのものに美しさや見事さが加わってくる人間になっていくのか、或いは動作や姿勢に切れ味がない人間になってしまうのかの差はそこの違いだと思います。でも、他人は誰も言ってはくれません。自分もそれに気付きません。やはりプロ意識というものは自分の生活の中で、他人の行動や美意識を学んで自分に磨きをかけるようにして築き上げていくものだと思います。

 

 

 

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