菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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94.どんな規則にもその原点には深い意味がある

規則は少なければ少ない程良いという話は以前にもしました( No.9 )。組織が大きくなればなるほど、あるいは組織としての機能を色々と持つにつれて、規則は増えていかざるを得ません。そして結果的には、その規則がもともとは何のために作られたのかの原点さえ忘れてしまい独り歩きしてしまいます。

規則は最初は何らかの目的があって作られたはずですが、何時の間にか規則だけが残り何故それを作ったのかの本来の意味が薄れてしまっていることがあります。いわゆる形骸化です。以前にも書きましたが、どんな組織でも一旦作られると、本来何らかの目的を達成するための手段として作られた組織や規則が、何時の間にかその組織や規則の存在そのものが目的になってしまうのです。

そんなことをしみじみと昨夜のスタッフミーティングでは感じさせられました。それはスタッフの一人が言った「7月から外へ出る医師は6月に1週間休みが貰える」という発言です。私も含めて、そんな規則があるのはすっかり忘れていました。しかし他のスタッフの話しによると、「7月から外へ出る人達は既に休暇の予定を立てている」ということです。その時に、何故その規則が作られたのか誰も最初は思い出せませんでした。

しかし、色々と話しているうちにやっと思い出しました。それは一所懸命研修に励んだ新人医局員のために「御苦労様でした」という意味を込めての休暇だったのです。ところが、先ずその規則を作った私自身が本来の意味を忘れていました。反省すべきところです。一方、その休暇を与えられる側にも大きな誤解が生じていたようです。それはその規則が何時の間にか新人医局員ではなく、7月から外に出る人達全てに与えられる休暇であること、およびその休暇は規則としてあるので、その規則の由来などどうでも良く、ただ休みが貰えるというその一点にのみ興味が集中している点です。

ミーティングが終わって自分の心に深い悲しみや怒りを感じたのはこのことです。忘れた方も悪いのですが、やはり休みを貰う新人達が(事実は新人のみならず7月から外へ出る人達全員という意味に取られているようですが)休暇を貰えることが既得権のように思っていて、そこには上級スタッフの、休まれると出るであろうその穴を埋めようという決心や、「御苦労様」という周囲からの暖かい労いがその根底にあることを忘れているという事実です。ただ休みを取るということだけに新人が心を奪われ、彼等に何とか休みをあげようと努力している私も含めた他の医局員への感謝の気持ちが全くそこには見られないことです。

やはり「日々新たなり」という気持ちを持って、お互い時々規則を振り返り、その規則が出来た原点、何故出来たのかを振り返ることも無駄ではないと思う昨夜の出来ごとでした。思いやりを他人に求めるなら、自分も先ず他人へ思いやりを持つべきです。

 

 

 

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