菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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58.ミスをしたらその背景を理解すべく努力せよ

医師に限らず、人間はミスをするのが普通です。ミスのしない人間はいません。ただ、そのミスをどう生かすかが医師にとって岐れ道です。医療業務一つを取っても、医師としての生涯の間にミスのない人間がいる筈がありません。もしいるとしたら、その人間は自分がミスをした事が判っていない訳ですから、その危険度は深刻です。

具体例を話してみます。例えば、自分の指示のミスで患者さんが重篤な状態に陥ったとします。その時、申し訳ないと患者さん、家族、或いは周囲に謝ります。それでその場は終わるでしょう。しかし、謝っただけではまた同じ事を繰り返すのです。何故、ミスをしたのか、何故、処置や対応が後手に回ったのか。そこでその原因を突き止めないとまた、同じ事を繰り返す訳てす。同じミスを繰り返したら、前のミスを甘受したその患者さんは浮かばれません。

同じような事は医師としての普段の研究面でもあります。学会が近付くと、私の怒りは頂点に達します。それは、色々な不作法、或いは無礼が私の目の前を横行するからです。FAXを送る時に断りも無しにFAXを送って来る。学会発表直前にFAXで原稿を送って来る。挙句の果に送って来た原稿は叩き台にもなっていない。私は、その事を怒ります。しかし、もっと腹が立つのはその叩き台を指導している中間管理職です。自分は以前、私に懇切丁寧に親身になって指導されているくせに、その事を若い医局員に還元していない、その事に私は腹を立てる訳です。自分の受けた誠意は、必ずその更に下の若い人に返すべきです。それが輪廻の思想なのです。そうしないと、何時まで経っても医局という組織は良くなりません。また、そういう誠意を若い人に掛ける事によって、若い人は上の人を慕うのです。こうして一家意識が生まれるのです。

「申し訳ございませんでした」、「すみませんでした」でその時は終わります。でもそれで終わったら夜中までかかって原稿を作ってあげた誠意は全く生かされませんし、本人もまた同じ事を繰り返します。どうしてそういう事をくどくどというかと言うと、学会の度毎に同じ事が繰り返されているという事は、ミスした場合にその背景を理解すべく努力をしていないからです。何故自分がこのようなミスをしたのか、何故このような不作法をしたのか、深刻に反省しないと、ただ「すみませんでした」、「申し訳ありませんでした」、これでは嵐の過ぎ去るのをじっと待っている動物と全く何も変わりません。ミスは仕様がありません。

ミスをするのが人間です。ですが、そのミスを今後に生かすかどうかがその人間の今後の成長の岐れ道です。もう一度タイトルに戻ります。ミスをしたらその背景を理解してそれを次に必ず生かして下さい。

 

 

 

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