菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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34.人の才能はそれぞれ

医局員を見て、或いは他の分野の人の仕事ぶりを見て感ずる事が一つあります。それは、人の才能は様々である、という事です。非常に頭の切れる人、頭は切れないがコツコツとやっていつか理論体系を作る人、或いは仕事を適当にやっていながらしかし妙に人から信頼されている人、様々です。医師としての才能や求められる能力もまた様々です。決して目から鼻に抜ける様な切れ味の鋭い頭脳だけが医師に要求されるわけではありません。人それぞれ自分の得手不得手がありますから、自分の得手で勝負をすればいいのではないかと思います。

例えば、私は数学的分析能力は殆どゼロに等しい才能しかありません。翌朝の暖房のタイマーのスイッチを入れるのに、10時15分の時に、朝5時に、すなわち7時間後にスイッチが入る様にタイマーをセットしたとするとします。そうすると朝5時15分に入るのか4時45分にスイッチが入るのか未だによく判りません。これは大げさに言えば、論理的な思考が出来ていないという事です。自分の子供にも馬鹿にされる始末です。しかし、何度やってもこれは覚えられません。だからといってそれでは医者として医学の研究者として仕事が出来ないかというと、そこそこの事はしているつもりでおります。少なくても人から批判される様な仕事はしておりません。

私が言いたいのは、人の能力は様々で、しかもその生かし方も様々であるという事です。私自身、切れ味鋭い頭ではありません。ただ私の自分から見て自分の得手は、膨大な資料、雑然と並べられた事実の中から何か共通な普遍的な事は何かとか、コツコツコツと論文を読み、データを整理して一つの仮説を打ち立てる事は他人よりも上手だと自分で評価しています。私の友人に殆ど勉強しないにも拘らず、さらりと分析してやってのける人間もいます。また、鉈の様な強いしかも切れ味の良い頭を持っている同級生もおります。この様に人の能力は様々ですから、その能力に応じて自分の得意な分野を開拓していけばいいのではないかと思います。

ですから、学力テストが悪いからと言って自分は伸びれないと言うのは言い訳です。そんな事は決してありません。ただ、自分の能力はどんな方面にあるのかを見出だす努力は必要です。自分の得手不得手が判らない、即ち自分をきちんと評価出来ない人間はやはり能力が発揮出来ないわけです。なぜならば自分の得意な点が何か判らないのですから、自分の力が発揮しようがないわけです。ですから自分の能力は何なのかよく顧みて、そこからスタートしてみる事が急がば回れで一番早道かもしれません。どうぞ休日にでも自分の能力はどんな点で他人より秀でているのか、人様々です。或いは思いがけない分野にある筈です。そしたらそれを自分の職業の中ではどう生かせば良いのかを考えるべきでしょう。是非次の日曜日に考えてみて下さい。

 

 

 

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