菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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31.人は変わる

私自身は一般病院で組織の力を背景とせずに自分の努力で生き抜いてきた為に、どうしても人を良くも悪くも信用しない、或いは頼らない傾向があります。しかも、その時点での人間の評価を固定したものとして評価していました。人は変わらないものだという思いで人を評価してきました。ところが、それは大いなる過ちであったという事を気付かされました。それを具体的に話してみましょう。

私が県立田島病院に赴任した時、県立田島病院には入院患者さんは居らず、外来患者さんも一桁でした。手術場は倉庫となっており、器械類は一切ありませんでした。私は前に勤務していた病院との格差の激しさに暫くは鬱状態になった程です。しかし、心を切り替え、一所懸命働きました。恒例の朝7時からの回診、外来が終ってからの手術、病棟回診、夜の回診、帰宅してからの自分の勉強と研究、こういう毎日でただひたすら働きました。そうしたらどうでしょう。職員の顔ぶれは何も変わりません。

しかし、前年度に数千万円の赤字であったのが、一年後には一億数千万円の黒字を出す病院に変わったのです。そうです。人は変わるのです。人は何らかの動機づけ、或いはその人間の自尊心に訴えかけてやれば、人は動くのです。人を固定観念で見ない事が大事であるという事を、身に凍みて教えられました。

ですから、お互い人にレッテルを貼ってそれで人を判断する愚は避けましょう。人は変わるものだ。その人が変わるきっかけは動機づけであり、その人間の誇りに訴える事である様です。ですから、他人のだらしなさを嘆くよりも、その人が働いてくれる様に自ら何らかの姿勢を示して他人の自尊心に訴える事が大事なのではないでしょうか。

 

 

 

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