「こころ」の調査

「人々の集まり」を理解するために行われる調査研究とはどのような手続きで行われるのでしょうか。パーソナリティ心理学を例にその手続きの一部と解釈を紹介したいと思います。

パーソナリティ心理学の研究では多くの場合、「こころ」の語彙を行動の記述に還元した、多数の質問項目を使って調査を行います。この「こころ」の語彙には、いくつか挙げてみるだけでも、「自己愛」「誠実さ」「落ち込みやすさ」「怒りっぽさ」といった多様な「こころ」が含まれます。こうした「こころ」の語彙を行動の記述に還元するならば、例えば「誠実さ」であれば、「根気強く、与えられた課題が終わるまで取り組む」、「物事をきれいに揃えたりまとめたりする」といったような記述となります (Yoshino et al., 2022)。こうした記述に対して、「あなたにどの程度あてはまりますか。最も近いと思う数字を選んでください。1:全くあてはまらない – 5:とてもよくあてはまる」というような形式で回答を求めます。

調査の際には、たくさんの人たちにこうした質問項目に答えてもらい、一人ひとりから個別にデータを得て、回答を集計していくという手続きをとります。そして、集計された回答を統計的に分析することで「人々の集まり」の性質を理解することを目指します。つまり、こうした調査は、一人ひとりの個別の回答傾向を明らかにするために行われるのではなく、たくさんの人たちの回答を集めることで、集団の傾向として何らかの特徴が見られることを期待して行われるものです。

「誠実さ」と「X(例えば,飲酒量,運動量の多さ等)」についての「人々の集まり」の性質を明らかにするための調査を行ったとします。そして調査の結果、「誠実な人たちほどXである人たちであり、誠実でない人たちほどXでない人たちである」という集団の特徴が確認されたとしましょう。この時明らかになったことは集団の「こころ」の特徴です。「あなたが日々より誠実に振る舞うことで、よりXとなる」ことを表しているというわけではありません。また、集団の特徴であっても、「誠実な人たちに変化するほどXである人たちに変わる」こと、あるいは、「誠実でない人たちに変化するほどXでない人たちに変わる」ことをも明らかにした調査結果といえるのかどうかについては、じゅうぶんに吟味する必要があります。「誠実な人たちほどXである人たちであり、誠実でない人たちほどXでない人たちである」という結果に依拠して、いざ、「人々を誠実な人たちに変化させてみたら、Xでない人たちに変わってしまった」ということもありえます。

「こころ」について「一人ひとり」ではなく「人々の集まり」として考える機会はなかなかないかもしれません。しかし、社会の問題や公衆衛生上の問題の解決法を考える上では、こうした視点が解決のヒントを与えてくれるかもしれません。

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