第44回医学教育セミナーとワークショップ in 福島

2011年3月11日に生じたM9.0の東日本大震災、巨大な津波に襲われて起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえて、医学教育・医療人教育に従事する者が激甚災害の経験から何かを学び、これからの教育の場に活かすことができないかについて、鈴木MEDCセンター長、藤崎教授から被災した秋に御相談を頂いた。正直、災害の規模が大きく、状況が深刻化する時点でお引き受けすべきかを迷ったが、1年後に経験を皆で振り返る機会になればと祈りつつ、また、全国の参加者との経験の共有の場にできればと考えて、学内の先生方と相談し福島でのワークショップを企画した。
第44回医学教育セミナーとワークショップin福島と題し、平成24年5月26日(土)~27日(日)に福島県立医科大学を会場に開催した。「災害時の急性期対応」、慢性期に重要度を増す「こころのケア」、「医学部定員増と地域医療」の3つをテーマとしたワークショップ、東北の復興構想についての特別セミナー、シミュレーション医学教育の見学体験セミナーを企画した。いずれも今の東北の厳しい状況に応じたテーマとし、また、本学のFD(教員教育)を兼ねるフレームワークとしたが、御理解・御協力いただいたMEDCの先生方には深く感謝している。
実際、地方大学でのMEDCワークショップは共催校の教職員の大きい励みになったことも報告したい。参加者は講師・スタッフを含め136名で、能登半島沖地震の経験のある先生方をはじめ、全国から参加して討論に加わっていただいた。こころから感謝したい。以下に開催内容について概要を紹介する。
高齢化が進行する社会で、これから取り組まなければならない復興の過程で医療者が果たす役割は小さくないと思われる。今回のワークショップでの学習経験は、自然災害・原発事故等への防災・減災教育開発のひとつの契機となったと信じている。復興に向けた医学教育開発を継続的な課題としてとらえていただければ幸いである。

福島県立医科大学
医療人育成・支援センター 医学教育部門
石川 和信

日時  平成24年5月26日(土)~27日(日) 13:00~翌13:30 
場所 福島県立医科大学 4号館5階、8号館3階及び4階 (福島市) 

オープニングセレモニー

第44回医学教育セミナーで司会を務める石川和信氏が講演を行っている様子。背景には窓と観客席が見える。
司会 福島県立医科大学 医療人育成・支援センター 石川 和信
福島県立医科大学で行われた第44回医学教育セミナーの挨拶をする阿部正文氏。
挨拶 福島県立医科大学 阿部 正文
第44回医学教育セミナーで挨拶をする岐阜大学の鈴木康之センター長。
挨拶 岐阜大学 医学教育開発研究センター長 鈴木 康之

WS-1 災害から学ぶ実践的医学教育

高橋弘明(岩手県中病院)、大谷晃司(福島医大)、若林英樹(岐阜大MEDC)にコーディネータをお願いした。石橋悟(石巻赤十字病院)、長谷川有史・土屋貴男(福島医大)、加藤博孝(岩手磐井病院)、林健太郎・角泰人(PCAT)、鈴木康之(岐阜大MEDC)らのタスクフォースには災害急性期・被曝医療対応での経験と振り返り、次の災害に備えるための教育・研修企画の紹介と討論を展開していただいた。約40名の参加者が5つのグループに分かれて、災害急性期における対応能力を備えるための教育プログラム(目標・方略)が熱心な討議を踏まえて作成された。それぞれの地域に求められる災害教育・研修を開発・実践していく契機になりえたのではないかと考えられる。

企画 : 高橋 弘明(岩手県立中央病院)・若林 英樹(岐阜大学)・大谷 晃司(福島県立医科大学)

第44回医学教育セミナーで講演を行う男性と参加者たちが議論している様子。
第44回医学教育セミナーのワークショップで参加者が議論している様子。テーブルには資料や飲み物が置かれ、黒板も見える。
第44回医学教育セミナーとワークショップの様子。参加者がテーブルを囲み、活発に議論や作業を行っている。

WS-2 厳しい現実に向き合うこころのケアと医療面接

藤崎和彦(岐阜大MEDC)、石川和信(福島医大)が企画した。震災・原発事故後の1年後、東北では32万人超の人達が元の家を追われて生活している。このワークショップでは家族や友人を失い、行き先の見えない状況で不自由な生活を余儀なくされている被災者にどのように関わったらよいか、こころのケアと医療面接に焦点を当てた。実際にあったケースから学習シナリオを作成し、ロールプレイと問題点の討論、配慮すべきポイントのまとめの作業を繰り返した。医師、コメディカル、模擬患者(SP)、約60名が8グループに分かれて学習した。①避難所、②仮設住宅・個別面接、③Care Giverのメンタルケアの3つのセッションで、和田明、本谷亮、大川貴子(福島県立医科大学)がタスクフォースを務めた。現実にあったシナリオ、災害経験者を含んだ討論はリアリティーに溢れた。フィードバックも多角的で、学びの多いワークショップとなった。また、教員とSPとが一緒のグループになって2日間、共同作業をなしえたことも収穫で、このワークショップの長所と考えられた。

企画 : 藤崎 和彦(岐阜大学 医学教育開発研究センター)・石川 和信(福島県立医科大学)

第44回医学教育セミナーで講演を行う男性が、スクリーンの内容を説明している様子。
第44回医学教育セミナーで講演を行う講師と参加者たちが座っている様子。
第44回医学教育セミナーで講演する男性が、資料を手に持ちながら話している様子。背景には窓があり、明るい室内の雰囲気。

WS-3 地域枠入学者と地域医療教育のプランニング

福島哲仁(福島医大)、長谷川仁志(秋田大)、高田淳(高知大)に企画をお願いした。臨床医学、基礎医学、総合科学系の教員に加えて、行政、マスコミ、学生が参加し、約30名が4つのグループに分かれて討論した。岡田達也(福島医大)、川井巧(福島医大)、増山由紀子(福島医大)、西城卓也(MEDC)がタスクフォースをつとめた。「地域枠入試の現状と課題」、「地域枠入学学生の支援」、「大学の地域医療教育」の3セッションに分けてグループワークが行われ、地域枠学生の選抜の現状、地域枠入学者への修学資金額の問題、入学後の学習プログラム、卒後研修のあり方等、幅広く討論がなされた。また、地域医療を担うことの意義を啓発する実践的学習プログラムの継続が提起された。高齢化を踏まえて地域医療に要求される総合力、医療・多職種連携、在宅医療など、現時点の医学教育で十分でない分野の教育開発をどうして行くかについて、将来の方向性を考えた充実したワークショップであった。

企画 : 長谷川 仁志(秋田大学)・高田  淳(高知大学)・福島 哲仁(福島県立医科大学)

第44回医学教育セミナーで講演する講師と参加者の様子。
第44回医学教育セミナーで講義を受ける参加者たちが、教室で真剣に学んでいる様子。
第44回医学教育セミナーのワークショップで議論する参加者たちが集まる会議室の様子。

特別セミナー 「震災後の社会が医療者に求めているもの」

学習院大学 教授 赤坂 憲雄 先生 (福島県立博物館長 ・ 東日本大震災復興構想会議委員)

東北学の提唱者で東日本大震災復興構想会議委員を務められた民俗学者の赤坂憲雄先生にお願いした。東北の人々の歩み、暮らし、信仰、祭り、等を「あるく、みる、きく」を実践しながら見つめてこられた赤坂先生が震災後に見た被災地の状況、真の復興に必要なことについてことをお話になった。原発事故も重なり、医療者がかつてない被災の様相下でどのように医療を実践していくかについて、共に考える時間となった。

第44回医学教育セミナーで講演を行う男性が、マイクを持って話している様子。
第44回医学教育セミナーに参加する多くの人々が集まる会場の様子。

見学体験セミナー シミュレーション教育の授業活動:バーチャル医学生

福島医大のスキルスラボを運営している石川和信、同スタッフの小林元、菅原亜紀子が企画した。福島県立医科大学では,臨床実習でのシミュレーション教育の活用を進め、大半の講座が施設を活用し技能教育が展開している。スキルラボの設置、シミュレーション教育導入のためのFD、技能教育と臨床実習後自己評価等の取組を紹介した。見学体験セミナーでは参加者にできるだけ、シミュレータに触れていただきたいという考えから、参加者の一部に医学生になっていただいて、腹腔鏡下手術(福島俊彦)、腰椎穿刺(熊谷智広)、消化器内視鏡・腹部超音波(片倉響子)の3つのコースに分かれて、模擬実習を行った。約60名の参加者はスキルスラボでの授業の楽しさを体験され、大変に好評をいただいた。

企画 : 石川 和信、小林  元、菅原 亜紀子(福島県立医科大学)

第44回医学教育セミナーで講演を行う講師と参加者が座っている様子。
第44回医学教育セミナーで機器を操作する参加者たちが集まる様子。
医学教育セミナーでの実習風景。医療従事者が人形を使って技術を学んでいる様子。
第44回医学教育セミナー終了後、スタッフ全員が屋外で記念撮影を行っている様子。
セミナー終了後、スタッフ全員で記念撮影

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