研究内容の詳細
1. 地域保健・医療・福祉
A) 健康診査・保健指導と受療行動・医療費に関する研究
平成20年度から特定健診が義務化されました。生活習慣病の予防を効果的に進めるとともに、医療費適正化を実現する上で、健診未受診者への働きかけが重要な課題です。当講座では、複数の地域で特定健診及び特定保健指導の未受診理由を調査するとともに、健康診査の結果と保健指導、受療行動への影響を調査しています。
- Hidaka T, Suzuki R, Hashimoto K, Inoue M, Terada Y, Endo S, Kakamu T, Gunji M, Abe K, Fukushima T. Perceived Future Outcomes of Unsuccessful Treatment and Their Association with Treatment Persistence Among Type-2 Diabetes Patients: A Cross-Sectional Content Analysis. Diabetes Ther. 2023;14(9):1437-1449. doi: 10.1007/s13300-023-01433-1.
- Hidaka T, Takahashi N, Hashimoto K, Inoue M, Terada Y, Endo S, Kakamu T, Tsukahara T, Abe K, Fukushima T. Qualitative and Quantitative Study on Components of Future Time Perspective and Their Association with Persistent Treatment for Type 2 Diabetes. Diabetes Ther. 2021;12(12):3187-3199. doi: 10.1007/s13300-021-01175-y.
- Kakamu T, Hidaka T, Kumagai T et al. Unhealthy changes in eating habits cause acute onset hypertension in the normotensive community-dwelling elderly-3 years cohort study. Medicine (Baltimore). 2019; 98(15):e15071.
B) 高齢者の日常生活動作、及び健康寿命に関する研究
健康寿命は一般に、ある健康状態で生活することが期待される平均期間またはその指標の総称を指します。健康日本21(第2次)では、健康上の問題で 日常生活が制限されることなく生活できる期間を指しています。当講座では、地域に根ざした各フィールドで調査とそれをもとに算定を行い、保健事業や生活習慣が将来の健康寿命にどのように関連するか明らかにしています。
- Hidaka T, Endo S, Kasuga H, Masuishi Y, Kakamu T, Abe K, Fukushima T. Associations of combinations of housing tenure status and household structure with subjective happiness among community-dwelling elderly people: A cross-sectional study with stratified random sampling. Geriatr Gerontol Int. 2020;20(6):615-620. doi: 10.1111/ggi.13917.
- Sato S, Kakamu T, Hayakawa T et al. Predicting falls from behavioral and psychological symptoms of dementia in older people residing in facilities. Geriatr Gerontol Int. 2018;18(11):1573-1577.
C) 地域における難病患者/障害者/高齢者のQOL(quality of life)に関する研究
住み慣れた自宅・地域社会で暮らしていくことは、充実した生活に繋がる重要な点ですが、高齢者や、重篤な病い・障害とともに生きる人々にとっては様々な困難が伴うのも現実です。地域生活・在宅生活で生じる問題点、生活上の工夫、病い観の変容などを調査するとともに、QOLとの関連を調査しています。
- Kasuga H, Endo S, Masuishi Y, Hidaka T, Kakamu T, Saito K, Abe K, Fukushima T. Association between participation in sports club activities and decision-making preferences in end-of-life treatment among Japanese elderly people:a cross-sectional study. Fukushima J Med Sci. 2021;67(3):135-142. doi: 10.5387/fms.2021-16.
- Kasuga H, Endo S, Masuishi Y, Hidaka T, Kakamu T, Saito K, Abe K, Fukushima T. Association between subjective economic status and refusal of life-prolonging treatment: a cross-sectional study using content analysis with stratified random sampling. Fukushima J Med Sci. 2022;68(1):11-18. doi: 10.5387/fms.2021-13.
- 日高友郎. コミュニケーション支援のフィールドワーク―神経難病者への文化心理学的アプローチ. ナカニシヤ出版. 2018.
2. 産業保健
A) 不規則労働の身体的、精神的健康に与える影響とその対策に関する研究
産業構造の変化により、深夜労働、早出、遅出、過重労働の増加など、労働時間の不規則化が進行しています。不規則労働により、心身の不調を訴える者が増加し、保健活動、メンタルヘルスの重要性が高まっています。不規則労働の形態と健康への影響について研究を行なっています。
- Kakamu T, Hidaka T, Masuishi Y, Kasuga H, Endo S, Sakurazawa M, Munakata Y, Tajimi K, Fukushima T. Effect of occupation on sleep duration among daytime Japanese workers: A cross-sectional study. Medicine (Baltimore). 2021 Dec 10;100(49):e28123.
- 各務竹康, 辻雅善, 日高友郎(他). 深夜勤務後の疲労回復とストレス解消の自覚度との関連. 産業衛生学雑誌. 2014; 56: 116-120.
B) 震災復興労働者の健康状態に影響を与える要因の解明
東日本大震災により、福島県内では避難者の増加、産業構造の変化により、生活環境に大きな変化が生じています。当講座では、震災により、労働者の健康状態に生じた変化を明らかにするほか、復興・除染のために福島県で就労した方々の労働環境、健康を守るための研究を行なっています。
- Hidaka T, Kakamu T, Endo S et al. Factors associated with possession of accurate knowledge regarding occupational health management among operations leaders of radiation decontamination workers in Fukushima, Japan: a cross-sectional study. BMJ Open. 2019;9(5):e025729. doi: 10.1136/bmjopen-2018-025729.
- Kakamu T, Hidaka T, Kumagai T et al. Characteristics of anxiety and the factors associated with presence or absence of each anxiety among radiation decontamination workers in Fukushima. Ind Health. 2019; doi: 10.2486/indhealth.2018-0094.
- Hidaka T, Kakamu T, Endo S et al. Life in company dormitories and a career change are associated with anxiety over lack of privacy among radiation decontamination workers in Fukushima Prefecture, Japan. J Occup Health. 2018;60(5):361-368.
C) 労働者における食生活と肥満を含む健康問題との関連
当講座では食生活・運動習慣・社会的生活などの諸要因が、肥満や高血圧などの健康問題とどのように関わっているのかという点を研究しています。特に労働者に焦点を当て、実態調査ならびに大規模健診データ解析を併用することにより、労働現場に即した知見の還元を目指しています。
3. 環境保健
A) 空間放射線測定とその長期経過の予測に関する研究
福島第一原発事故後、福島市内においても空間放射線量が上昇しました。当講座は、細胞統合生理学講座と共同で、事故後より放射線量の測定を行い、その推移を観察しています。
B) 熱中症の予防と実践に関する研究
当講座では、暑熱環境下での労働者の熱中症に関する研究を進めています。特に福島第一原発事故後には、事故収束作業員を対象に熱中症の発生に関する特徴を明らかにし、作業員の熱中症予防対策について検討しています。
- Kakamu T, Ito T, Endo S, Hidaka T, Masuishi Y, Kasuga H, Fukushima T. Inappropriate timing of salt intake increases the risk of heat-related illness: An observational study. PLoS One. 2024;19(1):e0296388. doi: 10.1371/journal.pone.0296388.
- Kakamu T, Endo S, Tsutsui Y, Hidaka T, Masuishi Y, Kasuga H, Fukushima T. Heart rate increase from rest as an early sign of heat-related illness risk in construction workers. International Journal of Industrial Ergonomics. 2022; 89: 103282.
- Kakamu T, Endo S, Hidaka T, Masuishi Y, Kasuga H, Fukushima T. Heat-related illness risk and associated personal and environmental factors of construction workers during work in summer. Sci Rep. 2021;11(1):1119. doi: 10.1038/s41598-020-79876-w.
C) 中毒/トキシコロジー
農薬や重金属は人体に対して有害となるものがあります。当講座では、除草剤パラコートによる肺線維症の原因究明を通じて、体内の線維化が問題となる疾患について広く研究を発展させていく予定です。また、吸収性の人工硬膜に含まれているスズの毒性評価、ダイオキシン類とアレルギーの関係についても研究を進めています。
4. 予防医学の理論と実践
A) 生活習慣に関わるバイオマーカーの探索
喫煙や飲酒など、望ましくない生活習慣を改善することは、予防医学上の重要な課題となっています。一方で、正確な曝露量の把握には困難を伴います。そこで当講座では、喫煙や飲酒などのバイオマーカーの探索的研究を実施しています。
B) 神経細胞の老化(パーキンソン病など)に影響をおよぼす生活要因に関する研究
パーキンソン病を初め、神経細胞の老化をベースに発症する疾患の原因究明を目的に、中華人民共和国の武漢大学と国際共同比較研究を実施しています。 栄養素摂取を初めライフスタイルとの関連に注目した疫学研究、実験室では、我々の仮説をもとにパ−キンソン病モデルの開発を動物や培養細胞を用いて 試みています。
C) 生活習慣病の発症・進展メカニズムの解明
生活習慣病への対策は、公衆衛生の重要課題となっています。中でも、肥満・高血圧・耐糖能異常・脂質異常症から構成されるメタボリックシンドロームは、循環器疾患のリスク因子であり、対策が急務です。当講座では様々な生活習慣病を対象にし、発症・進展メカニズムを研究しています。
- Endo S, Kasuga H, Yusuke M, Hidaka T, Kakamu T, Fukushima T. Reliability and validity of the Japanese version of the weight bias internalization scale. BMC Res Notes. 2022 Oct 22;15(1):333. doi: 10.1186/s13104-022-06221-x.
- Endo S, Kakamu T, Kasuga H, Masuishi Y, Hidaka T, Fukushima T. Accurate weight gain perception may inhibit weight loss compared to inaccurate weight gain perception among Japanese adults. Psychol Health Med. 2021;26(4):509-517. doi: 10.1080/13548506.2020.1799043.
- Hidaka T, Hayakawa T, Kakamu T et al. Prevalence of Metabolic Syndrome and Its Components among Japanese Workers by Clustered Business Category. PLoS One. 2016; 11(4): e0153368.
5. 医学教育・行動科学
A) コラボレーションを通じて学ぶ参加型・問題解決型医学教育手法の開発、模擬患者のリアリティと医学教育への市民参加の意義に関する研究
衛生学・予防医学講座が担当する医学教育において、医学部3年次の学生に、家庭健康管理実習(Family Health Practice Tutorial) を実施しています。医学生同士がペアとなって、市内の一般家庭を訪問し、ご家庭の健康問題の解決を目指します。 医学生同士のコラボレ−ション、ならびに、学生と市民とのコラボレ−ションを通じ、より実践的な“生きた学習” ができるよう、その手法の確立を試みています。
- Hidaka T, Endo S, Kasuga H, Masuishi Y, Kakamu T, Fukushima T. Developing a broad perspective of future work and career in medical students through field trips to a disaster area: a qualitative study. BMC Res Notes. 2024 Mar 4;17(1):63. doi: 10.1186/s13104-024-06724-9.
- 日高友郎・遠藤翔太・春日秀朗・増石有佑・各務竹康・福島哲仁. カリキュラム移行により1年前倒しされた社会医学実習における同年度異学年の学生自己評価・客観的評価の比較 : レディネスに着目して. 医学教育. 2021; 52(4): 313-317.
- Sugawara A, Ishikawa K, Motoya R et al. Characteristics and Gender Differences in the Medical Interview Skills of Japanese Medical Students. Intern Med. 2017; 56(12): 1507-1513.
B) 現場の生活実態と当事者の主観的意味付けを理解するための質的(事例)研究法の整備
人々の主観的意味付けなどのような、数値化しがたいものをデータとして研究するためには、質的(事例)研究法が必要です。参与観察やインタビューは、医学研究や看護研究の分野でも活用されるようになってきています。医学研究において、質的(事例)研究法が、その価値を高められるように、社会科学(心理学、社会学、人類学)の研究知見も吸収しながら、研究法の整備にも取り組んでいます。
- 日高友郎. 震災から見る文化/文化から見る震災(文化心理学×移行). pp.191-207. および 春日秀朗. アンケート(記述法とまとめ方). pp.265-273. 木戸彩恵他(編著). 文化心理学〔改訂版〕―理論・各論・方法論. 東京:ちとせプレス. 2023.
- サトウタツヤ・神崎真実・春日秀朗(編). 質的研究法マッピング―特徴をつかみ、活用するために. 東京:新曜社. 2019.
C) 青年期の行動選択に影響する要因の行動科学的検討
私たちの日常においては、生活の規範的な行動や、受療行動、保健行動などのように、意思決定・行動選択が関わる場面が数多く存在しています。特に青年期は、自立/自律した生活を営むようになるスタート地点であることも多く、この時期に健康的な行動を身につけることは、その後の人生を豊かに営む上で重要です。当講座では、行動科学の観点から、人間の意思決定や行動選択についての基礎研究を実施するとともに、より実践的な場面への応用を目指すための研究を行っています。
D) 社会問題に対する行動科学・社会科学アプローチ
行動科学・社会科学は人々の行動、意思決定のプロセス、社会的相互作用、経済的および政治的構造など、社会の機能に影響を与えるさまざまな要因を理解する上で有用です。COVID-19や福島第一原子力発電所事故等をテーマとし、行動科学・社会科学の視点からアプローチすることにより、問題の全体像を把握し、解決策を提案することを目指しています。
- Kasuga, H., Endo, S., Masuishi, Y. et al. Public opinion in Japanese newspaper readers’ posts under the prolonged COVID-19 infection spread 2019?2021: contents analysis using Latent Dirichlet Allocation. Humanit Soc Sci Commun. 2023;10:504. DOI: https://doi.org/10.1057/s41599-023-02014-0
- Hidaka T, Kasuga H, Kakamu T, Endo S, Masuishi Y, Fukushima T. Concerns related to returning home to a "difficult-to-return zone" after a long-term evacuation due to Fukushima Nuclear Power Plant Accident: A qualitative study. PLoS One. 2022;17(8):e0273684. doi: 10.1371/journal.pone.0273684.
- Hidaka T, Endo S, Kasuga H, Masuishi Y, Kakamu T, Fukushima T. Visualizing the decline of public interest in the Great East Japan Earthquake and Fukushima Daiichi nuclear power plant accident by analyzing letters to the editor in Japanese newspapers. Fukushima J Med Sci. 2022;68(1):63-66. doi: 10.5387/fms.2021-18.