公式は覚えてはいけない

 保健科学部の「物理学」の授業の中で、“公式を覚えてはいけない”と常々語っています。これに対して

“公式を暗記するなと言われた際は、じゃあ何をすればよいのだろうかと思った”

というコメントを学生による授業評価の中でいただきました。このコメントは、物理を学習する上で本質的な疑問ですので、ここで改めてこの事について考えていきましょう。

 まず、大学において「勉強すること」とは何でしょう?それは「その内容を理解すること」です。理解なくしては、勉強したことになりません。では、「理解すること」とはどういうことでしょう?それは、その内容を人に「自分の言葉で説明できること」です(「〇〇を説明できる」と学習目標で謳われている科目も少なくありません)。

 物理学は非常に少ない法則(基本法則・基本原理)から様々な現象を説明しようとする(基本原理→現象)学問です。また、非常に多くの現象を説明できる基本原理を探求していく(現象→基本原理)学問でもあります。このような学問を学ぶにあたって、①用語(物理量や現象)の定義(言葉とその定義式)、②基本法則、③問題としている対象(「物質」や「力」等)の性質、は覚えてください。①は②の基本法則を記述するため、又は現象を説明するためのツールとして必要です。③は対象としている現象を②の法則と組み合わせて説明するために、又は②を使って説明する対象として必要です。

 ここで、①の「定義式」は高校までの学習で覚えた「公式」のほんの一部で、同じものではありません。前者は物理量や現象を定量的に扱えるよう文字式を使って定義したものです。例えば、「『等加速度運動』とは、加速度が一定の運動である」ということを、文字式で表したものです。後者は、特定の条件の下、いくつかの定義式と基本法則から得られる文字式です。例えば、「等加速度運動をしている物体の位置や速度の時間変化」の式は、「等加速度」・「加速度」・「速度」の定義式から導ける式(計算結果)です。高校までの学習では、これを「公式」と称して覚えることが推奨されていたかも知れません。でも、計算して得られるものであるなら、何も覚えておく必要はありません。これは、九九の計算(1~9までの数字の意味と掛け算という基本ルール)は覚えておく必要はありますが、2桁以上の掛け算は覚える必要がないことと同じです。

  物理を学ぶ上で上の①~③を覚えておけば十分で、①~③で導ける計算結果なんて覚える必要はありません。物理を理解するためには、計算結果(結論)も大切ですが、それ以上に「その結果に至るプロセス」が重要です。「あなたはそれをどう考えたのか」という思考のプロセスこそが、物理を学ぶ本質です。

  とは言え、実際の皆さんがこれから活躍する現場では、使うたびに公式を導いていたのでは埒が明かない、物理なんて使ってなんぼでしょ、と考える皆さんも多いでしょう。確かにその通りです。ただし、使ってなんぼの物理を正しく理解したうえで使えるかが大切です。その公式を適用できる条件はクリアしている?何をどう近似(理想化)したのか?等々をちゃんと把握した上で使用しなければなりません。現場ではほとんどが初見の問題です。そのような問題に対して、理解が不十分な公式を、公式だからと言って使用することほど危険なことはありません。公式を鵜呑みにしたまま使うのではなく、①~③から自分なりに論理的に説明できるようになってから使う、というスタンスが大切だと考えます。それこそが、理解すること、勉強することです。

 

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