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福島県立医科大学 トピックス

サイクロトロンを利用した前立腺がん診断を目指した製造システムの確立

【概略】

令和3年8月24日、本学先端臨床研究センターは、国立大学法人北海道大学(アイソトープ総合センター教授 久下 裕司)、住友重機械工業株式会社(東京都品川区:社長 下村 真司)と共同で日本医療研究開発機構(以下、AMED)医療機器開発推進研究事業(医療費適正化に資する革新的医療機器の探索的医師主導治験・臨床研究)の支援を受け、サイクロトロンによるGa-68製造システムの確立とGa-68標識PSMA-11の製造を達成しましたのでお知らせします。日本は世界的に見てもサイクロトロンが普及していること、Ga-68の製造の原価が安くなることからこの事業を進めてまいりました。
 今後、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のもとでGa-68標識PSMA-11の品質・安全性に関する審議を受け、臨床試験に向けた準備を進めて参ります。

【本開発の意義】

前立腺がんは、日本でも罹患率が非常に高いがんの1つです。がんの治療は原発巣の広がり、リンパ節転移や遠隔転移の有無によって治療法が異なります。通常はCT、MRI、FDG PET/CT検査や骨シンチなどの画像検査で転移の有無などを診断し、どのような治療を行うか決定します。しかしながら、前立腺がんにおいてはCT、MRI、骨シンチグラフィーの検査は、いずれも十分な診断精度が得られておらず、より精度の高い診断法が望まれていました。

このような前立腺がん診療の現状において海外では数年前からPSMA PET検査という診断方法が開発され有用性が検証されてきました。PSMAとは前立腺特異的膜抗原(Prostate Specific Membrane Antigen)の略であり、前立腺がんに多く発現しています。PSMA PET検査は、このPSMAが体の中のどこにあるのかを画像化する事により、転移を正確に映し出す事ができる検査です(図1)。その中でもGa-68標識 PSMA-11という診断薬を使用した PET検査(以下Ga-68 PSMA-11 PET検査)は、世界で最も広く普及している検査です。
 ヨーロッパ・米国・オセアニアの国々で行われた研究からは、この新しい検査(Ga-68 PSMA-11 PET検査)を行うと、より正確ながん進行度を把握(ステージング)でき、より適切な治療につながる事がわかっています。既に米国食品医薬品局(FDA)では2020年12月に薬事承認を受けております。日本でもGa-68 PSMA-11 PET検査の早期導入が期待されています。

図1:PSMA PET検査の仕組み
図1:PSMA PET検査の仕組み

Ga-68標識PSMA-11の原料であるGa-68という放射性物質は半減期約68分ととても短いため、病院内で薬を製造する必要があります。Ga-68の製造方法は2つあり、68Ge/68Gaジェネレーターによる簡易的ですが収量が少ない方法と、サイクロトロンという装置を用いた方法があります。ジェネレーターの場合には日本国内に製造拠点がないため、全てを輸入でまかなう必要があること、また世界規模でのGa-68需要の増大から、日本への供給が不足するなどの懸念があります。

日本は世界的に見てもサイクロトロン保有台数が多いこと、サイクロトロンによりGa-68を製造することでより多量のGa-68を入手出来ること、サイクロトロンを持っている施設であれば製造の原価が安く国の財政への負担が少なくなる可能性が高いことなどから、本学をはじめ本研究グループではサイクロトロンを用いたGa-68製造手法を確立させることが急務であると考え、本AMED課題に取り組んでまいりました。

今後、本研究グループでは臨床試験による安全性の評価を進め、国内における前立腺がん診断の進展に寄与してまいります。

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