先端臨床研究センターでは、サイクロトロン、PET/MRIを駆使して、新しい診断技術や核医学治療の開発を目指します。
製造・合成部門や臨床研究・治験部門との連携により、先進的なイメージング装置・高精度な測定装置を用いて、新たな診断・治療技術の開発や生体機能の解明などにおける橋渡し研究機関としての役割を果たしています。
2020年12月5日(土)に開催される第10回核医学画像解析研究会のプログラムが完成いたしました。
プログラムは、こちらからご覧いただけます。
研究会の詳細は、2020年10月7日のお知らせをご覧ください。
当センター所属教員による研究の成果が、”EJNMMI Physics”に掲載されました。
【掲載雑誌】
EJNMMI Physics(2020年9月号)
【標題】
Human dosimetry of free 211At and meta-[211At]astatobenzylguanidine ( 211At-MABG) estimated using preclinical biodistribution from normal mice
(正常マウスにおけるフリー211Atおよびmeta-[211At]astatobenzylguanidine(MABG)の生体内分布を用いたヒト組織吸収線量評価)
【研究者】
右近 直之、趙 松吉、鷲山 幸信、織内 昇、粟生木 美穂、
譚 成博、下山 彩希、髙橋 和弘(先端臨床研究センター)
久保 均(新医療系学部設置準備室)
伊藤 浩(放射線医学講座)
【概要】
悪性褐色細胞腫(がん)に対するアルファ線を放出する治療薬候補の生体内分布(薬剤が体内臓器にどの程度集積するか)を、マウスを用いた動物実験で評価し、ヒトへ外挿することで正常組織の吸収線量を推定して臨床応用の際の副作用が予測可能かを検証しました。
悪性褐色細胞腫は副腎髄質に発生する腫瘍で、従来からベータ線放出核種である131Iを用いた131I-MIBGによる治療が行われています。福島県立医科大学では、がん細胞を殺傷する能力が高いアルファ線を放出する核種アスタチン211(211At)を結合させた薬剤211At-MABGの開発を行っており、この新しい治療薬候補を早く患者さんに届けるために、臨床試験の実施に向け取り組んでいます。
しかし、アルファ線治療の臨床利用の歴史はまだ浅く、従来のベータ線治療薬とは異なる予想外の副作用が懸念されます。そこで、211At-MABGの生体内分布評価を動物実験で評価し、その分布をヒトへと外挿することで人体の正常臓器への吸収線量を推定しました。これにより、患者さんに適切な治療薬の投与量を決定することで、副作用の発生を防ぎ安全な治療が可能となります。
この研究の成果は、新しい治療法として海外でも注目を集め、本学が研究を進めている211Atによるがん治療の開発につながる成果です。
本成果により、臨床試験開始に向け一歩前進することができました。今回の知見を活かし、臨床試験をできるだけ早く実現するために、準備を進めて参ります。
本研究は、科学研究費助成事業 若手研究(18K15556)および革新的がん医療実用化研究事業 (AMED) (JP20ck0106414) などの研究助成により実施したものです。
【詳細】
伊藤浩副センター長が代表世話人を務める「第10回核医学画像解析研究会」が2020年12月5日(土)に東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターにて開催されます。今回も日本核医学会 核医学理工分科会との共同開催となります。
トレーサーの動態解析や画像の定量解析等の画像解析をテーマとした研究会ですが、広く病態生理の計測に関する研究やMRI等の核医学以外のモダリティによる画像解析の研究も含めます。
今回は会場開催とWeb開催の併用によるハイブリッド開催となり、発表、質疑応答はZoomで行います。会場ではZoomの画面をスクリーンに映しますが、会場でのご発表、ご質問等もすべてZoomを介して行います。また、会場は最大20名の人数制限があります。
ご興味のある方は、是非ご参加ください。なお、新型コロナウイルス感染症の拡大状況によっては運営方法が変わる場合もありますのでご了承ください。
【日時】
2020年12月5日(土)14:00~17:00(予定)
【会場】
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(分子イメージング研究センター2F講義室)
宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
※会場開催とWeb開催の併用によるハイブリッド開催となります。
※研究会参加は無料です。
【核医学画像解析研究会】
代表世話人 伊藤 浩(福島県立医科大学)
当番世話人 渡部浩司(東北大学)
世話人 茨木正信(秋田県立循環器・脳脊髄センター)
生駒洋子(量子科学技術研究開発機構)
【日本核医学会 核医学理工分科会】
会長 木村裕一(近畿大学)
【連絡先】
〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
渡部 浩司
E-mail:watabe@cyric.tohoku.ac.jp
【詳細】
2020年7月11日~14日に開催された第67回米国核医学・分子イメージング学会(バーチャルエディショ
ン会議)において、趙松吉教授らの研究グループが腫瘍基礎部門でポスター賞金賞を受賞しました。
この学会は、毎年6月にアメリカで開催する核医学・分子イメージング領域で最も大きい国際学会です。今
年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )のため、初めてバーチャルエディション会議として2020年7
月11日~14日に開催され、7000名が登録参加しました。
この学会でのポスター賞は、腫瘍基礎部門をはじめ8部門において、各部門から金賞、銀賞と銅賞を設けて
います。今年は8部門において、976以上のポスター演題が採択され、各部門からトップ10演題が受賞候補者
に選ばれ、最終的な評価でトップ3の演題が受賞されることになります。
本研究は、褐色細胞腫担癌マウスにおける211At-MABGの腫瘍増殖抑制効果と安全性について、初めて
131I-MIBGと直接比較検討を行ったことと211At-MABGの転移性褐色細胞腫や傍神経節腫への早期臨床応用が
期待されていることが高く評価されたものと考えています。本研究成果が核医学領域における世界権威の国
際学会で金賞を受賞できたことは、現在本学で進めている211At-MABGの非臨床試験から臨床応用への研究開
発に大きな励みになることを期待しています。
なお、本研究は量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所との共同研究です。
【標題】
Effects and safety of alpha-emitting meta-211At-astato-benzylguanidine (211At-MABG)
compared with 131I-meta-iodobenzylguanidine (131I-MIBG) on tumor growth suppression
in a pheochromocytoma mouse model
【研究者】
趙 松吉、粟生木 美穂、西嶋 剣一、下山 彩希、右近 直之、
高 峰英、鷲山 幸信、髙橋 和弘、伊藤 浩(先端臨床研究センター)
吉永 恵一郎、鷲野 弘明、伊東 奈津江、
吉岡 菜穂、田村 菜穂美、東 達也(量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所)
【概要】
副腎に発生する褐色細胞腫と副腎外の傍神経節に発生する傍神経節腫はいずれもカテコールアミン産生を
特徴とする神経内分泌腫瘍であることから褐色細胞腫・傍神経節腫(PPGL:Pheochromocytoma and
paraganglioma)と総称されています。全生涯に渡り転移を来す可能性があることから2017年に世界保健
機構 (WHO)は褐色細胞腫・傍神経節種を悪性腫瘍に位置づけました。手術非適応の転移性PPGL患者の全身
治療として現状では化学療法(CVD)あるいはベータ線を放出するヨウ素-131(131I)を用いたmeta-131I-
iodobenzylguanidine(131I-MIBG)内照射療法以外に全身病変の進行抑制に繋がる治療選択肢がありませ
ん。131I-MIBGによる治療は標準治療のひとつとなっているものの、その生存ベネフィットが限定的です。ま
た副作用として高用量の投与或いは繰り返し投与による合計投与量の増加に伴い、骨髄抑制が重篤となる
ことがあります。そこでベータ線よりも、飛程が短く、細胞殺傷効果が高く副作用が少ないアルファ線を放
出するmeta-211At-astato-benzylguanidine(211At-MABG)は、転移性PPGLの治療に大いに期待されてい
ます。本研究では、ラット褐色細胞腫細胞(PC-12)移植マウスにおける211At-MABGの腫瘍増殖抑制効果と
安全性について、世界で初めて131I-MIBGと比較検討を行いました。
この研究ではPC-12移植ヌードマウスに211At-MABG(1.11MBq)、131I-MIBG(31MBq)又は対照群と
して溶媒を尾静脈内投与し、2週間腫瘍体積・体重等の測定、またマウスの皮膚乾燥状態と下痢有無の安全
性について経過観察を行いました。薬剤投与14日後、211At-MABGは対照群に比較し有意な腫瘍体積縮小効
果を示し、131I-MIBGと同様の効果を示しました。しかし、211At-MABG治療前後のマウス体重の有意な変
化や副作用が認められませんでした。以上の研究成果より、211At-MABGは治療効果が高く副作用が少ない
新しい治療法として転移性褐色細胞腫や傍神経節腫の治療選択肢になる可能性が示唆されました。
当センター所属教員による研究の成果が、英国雑誌“Scientific Reports”に掲載されました。
【掲載雑誌】
英国雑誌 “Scientific Reports”
【標題】
Feasibility of cancer-stem-cell-targeted radioimmunotherapy for acute myelogenous leukemia
using 211At-CXCR4 monoclonal antibody
【研究者】
織内 昇、粟生木 美穂、右近 直之、鷲山 幸信、譚 成博、
下山 彩希、西嶋 剣一、髙橋 和弘、伊藤 浩、趙 松吉(先端臨床研究センター)
池添 隆之(血液内科学講座)
【概要】
腫瘍組織を構成する癌細胞は、多様な細胞集団であり、多様性のもととなる細胞が癌幹細胞であることが
分かっています。癌幹細胞は、抗がん剤などの治療に抵抗性を示す腫瘍細胞のクローンを誘導し増殖するた
め、治療が無効となり悪性度が増すと考えられています。したがって、癌幹細胞を標的とした治療が、がん
の制圧には不可欠と考えられます。
CXCR4という分子は、癌幹細胞に広く発現し、癌細胞の増殖、浸潤ならびに転移を促進させることが知
られています。私たちのグループは、細胞障害性の強いα線を放出するアスタチン211(211At)を標識し
た薬剤による、CXCR4を標的とした治療の可能性を探る研究を行いました。
この研究では、211Atを結合させたCXCR4に対する抗体(市販のものを使用)(211At-CXCR4 mAb)を
ヒト急性白血病の細胞を移植した動物モデルに投与し、その体内動態から腫瘍と正常臓器の吸収線量をもと
に治療効果を推定したところ、211At-CXCR4 mAbは、正常臓器の障害が許容範囲内で腫瘍細胞に十分な線
量を与えることが示されたことから、この治療は急性白血病の幹細胞を標的とする治療法として有効である
可能性が示唆されました。
この研究の成果は、新しい治療法として海外でも注目を集め、本学が研究を進めている211Atによるがん
治療の開発につながる成果です。
なお本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B)(16H05393)として実施したものです。
【詳細】