オランダ国際誌「Progress in Disaster Science」掲載(2025年6月)

Rebuilding lives in Nagaya, a public housing for older victims of the great East Japan earthquake: An interview survey

東日本大震災で被災した高齢者の生活再建──災害公営住宅「相馬井戸端長屋」でのインタビュー調査──

福島県立医科大学の腫瘍内科学講座主任教授、佐治重衡氏のポートレート。白衣を着用し、背景には書類や小物が並ぶ。

伊東 尚美(いとう・なおみ)

放射線健康管理学講座 助教

研究グループ

伊東尚美、小橋友理江、木下ゆり、森山信彰、阿部暁樹、齋藤宏章、アミール偉、山本知佳、佐藤美佳、坪倉正治

 

 

概要

論文掲載雑誌:「Progress in Disaster Science」 (2025年6月26日)


・福島県立医科大学 医学部 放射線健康管理学講座の伊東尚美らの研究チームは、2011年東日本大震災で被災した高齢者が暮らす災害公営住宅「相馬井戸端長屋」の入居者を対象にインタビュー調査を実施し、震災後の高齢者の生活再建の状況や長屋の役割を明らかにしました。

 ・福島県相馬市は震災と津波で甚大な被害を受け、多くの高齢住民が家族や住まいを失いました。市は一人暮らしや障がいのある高齢者向けに「相馬井戸端長屋」を整備し、住み慣れた地域で暮らし続けられる環境と生活支援を提供してきました。

 ・本研究では、震災を機に長屋へ入居した60〜90代の男女32名(平均年齢79.8歳)を対象に、2020年6月から9月にかけて半構造化インタビューを実施しました。語られた経験や生活の変化を質的に分析し、共通するテーマを抽出・分類しました。

 ・分析の結果、震災後の困難として「津波被害や家族喪失」「なじみの土地からの離脱」「複数回の転居」「家族構成の変化」が明らかになりました。一方、長屋の役割としては「人や地域とのつながり再生」「健康や尊厳を保ちながらの自立支援」「災害に脆弱な高齢者への社会的セーフティネット」が示されました。

 ・長屋は低廉な家賃、昼食配達、職員による日常的な見守り、住民同士の交流などにより、高齢者が安心して暮らせる環境を提供していました。入居者の多くは「ここでずっと暮らしたい」と述べ、住み慣れた地域で最後まで暮らすことを望んでいました。

 ・本研究は、災害後の高齢者支援において、被災地近くでの住まい確保と日常生活支援・交流機会の提供を組み合わせることの重要性を示しました。このモデルは平時の高齢者福祉にも応用可能であり、地域包括型住宅モデルとしての活用が期待されます。(伊東 尚美)

 

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