英国雑誌「Radiation protection dosimetry」掲載(2024年11月)
Non-returning factors from an interview survey of 16 residents of Katsurao village 12 years after the Fukushima nuclear power plant accident
非帰還の背景とその要因に関する検討――原発事故後12年の葛尾村住民インタビュー調査

伊東 尚美(いとう・なおみ)
放射線健康管理学講座 助教
研究グループ
伊東尚美、アミール偉、森山信彰、古山綾子、佐藤美佳、山本知佳、趙天辰、坪倉正治
概要
論文掲載雑誌:「Radiation protection dosimetry」 (2024年11月13日)
・福島県立医科大学 医学部 放射線健康管理学講座の伊東尚美らの研究チームは、福島第一原発事故による避難指示が解除された後も帰還していない住民へのインタビュー調査を実施し、「帰還しない選択」の背景にある要因を明らかにしました。
・福島県葛尾村では、2011年の原発事故から12年、避難指示解除からも7年が経過しましたが、現在までの帰還率はおよそ30%にとどまっています。復興庁による2022年度の調査では、「将来戻りたい」と回答したのは約14%にとどまり、「戻らない」および「未定」とする回答が約50%を占める状況です。
・本研究では、避難指示解除後も帰還していない住民16名を対象に、2022年から2023年にかけて半構造化インタビューを実施しました。対象者は30代から90代までの男女であり、語られた内容を質的に分析することで、非帰還の背景に共通する要素を抽出・分類しました。
・その結果、「長期避難の影響」「放射線への不安」「健康上の問題」「避難先での住宅購入」「子どもの就学」「家族の分断」「二拠点生活」といった7つの非帰還要因が明らかになりました。これらの要因は複合的に影響し合いながら、住民一人ひとりの生活判断に深く関係していることが示されました。
・とくに健康問題は、高齢者の帰還意向に大きな影響を与えており、透析や介護を必要とする住民にとっては、医療・福祉資源の整った避難先での生活が帰還を困難にしています。また、子育て世代では、子どもが避難先で築いた学校生活や友人関係を重視し、教育環境を継続させるために帰還を見送る傾向も確認されました。
・さらに、かつて三世代同居で生活していた家族が避難により分断され、祖父母世代のみが帰還する一方で、子世代・孫世代は都市部に留まるといった構造的変化もみられました。加えて、避難先と村の双方に生活拠点を持ち往復する「二拠点生活」が定着している住民もおり、災害後の新しい生活様式が生まれていることも特徴の一つです。
・本研究は、「帰還しない」という葛尾村住民の選択が、災害後の長期的な生活変化や個人の事情を反映した合理的判断であることを示唆しています。今後の支援においては、帰還を希望する住民への対応に加え、避難先や二拠点での生活を支える支援体制の構築、ならびに地域間をつなぐ柔軟な政策の必要性が指摘されます。(伊東 尚美)
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