英国科学誌 「Scientific Reports」掲載(令和5年8月31日オンライン)
No increase in translocated chromosomal aberrations, an indicator of ionizing radiation exposure, in childhood thyroid cancer in Fukushima Prefecture.
福島県の小児甲状腺がん患者に原発事故による転座型染色体異常の増加はない

坂井 晃(さかい・あきら)
放射線生命科学講座 主任教授

鈴木 眞一(すずき・しんいち)
甲状腺治療学講座 主任教授
研究グループ
坂井 晃1、津山尚宏1、大平哲也2、 高橋美咲1、大葉 隆3、阿左見佑介4、 松本佳子5、岩舘 学5、鈴木 聡5、 佐藤真紀6、細矢光亮6、石川徹夫7、 鈴木眞一81福島県立医科大学 放射線生命科学講座2福島県立医科大学 疫学講座3福島県立医科大学 診療放射線科学科4総合南東北病院放射線治療科5福島県立医科大学 甲状腺内分泌学講座6福島県立医科大学 小児科学講座7福島県立医科大学 放射線物理化学講座8福島県立医科大学 甲状腺治療学講座
概要
論文掲載雑誌「Scientific Reports」 (令和5年8月31日)
東日本大震災による原発事故後、福島県で実施されている小児甲状腺検査において200人以上の甲状腺がんが発見され、放射線被ばくによる影響が不安視されている。原発事故後の小児甲状腺がんの発症が放射線被ばくの影響によるものか検証するため、 ① 小児甲状腺検査で甲状腺がんと診断された患者 ② 甲状腺がん以外の甲状腺疾患患者 ③ 比較対象健常者として20-24歳の末梢血リンパ球を用いて転座型染色体 (Tr) 解析を行いその形成数から過去の被ばく線量を推計した。
最初に、甲状腺がん、甲状腺関連疾患(非甲状腺がん)、コントロールの3群間の転座型染色体数の比較 (100細胞あたり)を行った。甲状腺がんと甲状腺関連疾患、甲状腺がんとコントロール間には有意差が認められたが、甲状腺関連疾患とコントロール間には有意差は認めなかった。
次に、男女間ではTr数に有意差はなかった。一方で甲状腺がん、非がん患者においては手術前に頸部、胸部のCT検査を行うことが通常診療で行われており、特に甲状腺がんでは98%の人がCT検査を受けていた。1回のCT検査における放射線被ばくによって染色体が切断されることは我々も既に報告しており、特に小児においてはCT検査の影響の有無は考慮するべきであると考えた。実際CT検査の有無によるTr数には有意差を認めた。
そこで、性差によるTr数の有意差はなかったが、性別とCT検査の有無で調整し甲状腺がん、甲状腺関連疾患(非甲状腺がん)、コントロールの3群間のTr数を比較(100細胞あたり)した。 その結果CT検査歴の有無及び性別で調整しTr数の比較では3群間に有意差を認めず、さらに CT検査歴のある人だけでTr数を比較したが3群間に有意差を認めなかった。
以上から、甲状腺がん、甲状腺関連疾患(非甲状腺がん)、コントロールの3群間のTr数の比較を行ったところ甲状腺がんでTrの増加が疑われたが、CT検査歴の有無で調整したところTr数の有意差は消失したため、甲状腺がん患者ではその治療前のCT検査がTr形成に影響していた可能性が示唆された。
なお、本研究は令和元年度戦略的学内推進事業の助成を受けた研究です。
(坂井 晃)
連絡先
- 公立大学法人福島県立医科大学 医学部 放射線生命科学講座
- 主任教授 坂井 晃
- TEL:024-547-1420/FAX:024-547-1940
- メールアドレス: sakira@fmu.ac.jp (スパムメール防止のため、一部全角表記しています)