第13回Heart Science Club 最優秀賞(2025年11月受賞)

HFpEFにおける新規エピゲノム修飾・ヒストンセロトニル化の意義

福島県立医科大学の助手、小河原崚氏のポートレート写真。白衣を着て微笑む姿。

小河原 崚(おがわら・りょう)

循環器内科学講座 助手

研究グループ

小河原 崚¹、三阪 智史¹、大河内 諭¹、市村 祥平¹、三浦 俊輔¹、横川 哲朗¹ ²、竹石 恭知¹

¹ 福島県立医科大学 循環器内科学講座

² 福島県立医科大学 地域先端循環器病治療学講座

今回の受賞について

Heart Science Club

Heart Science Clubは、心臓科学領域の将来を担う若手研究者の育成と、その研究活動の奨励を目的としている。

賞について

心臓科学領域における独創的な研究を行う若手研究者を奨励するための賞で、応募時に満40歳未満であることが応募の条件である。全国から応募された中から13名が最終選考に臨み、講演・質疑応答による審査を受け、最優秀賞・優秀賞・奨励賞が授与された。福島県立医科大学は2022年以来、2度目の最優秀賞を受賞した。第13回の優秀賞は東京大学、奨励賞は京都大学と慶応大学であった。

概要

左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)は多因子の複雑な病態であり、患者数増加と予後不良が深刻な問題となっている。このため、病態機序に基づいた新規治療法の開発が強く求められている。近年、新規エピジェネティック制御機構であるヒストンセロトニル化が注目されており、本研究はそのHFpEFにおける役割を明らかにした。HFpEFモデルマウスの心臓組織では、このヒストンセロトニル化の亢進が認められた。次に、この修飾を担う酵素TGM2の心筋細胞特異的ノックアウト(CKO)マウスを解析したところ、TGM2欠損は、拡張機能障害、運動耐容能の低下、肺うっ血といったHFpEFの病態を悪化させた。この結果は、TGM2―ヒストンセロトニル化経路が心臓保護的な役割をもつ可能性を示唆する。さらに、HFpEFモデル心では、ヒストンセロトニル化は、DNAダメージ応答に関わる遺伝子セットのプロモーター領域へ結合しており、これらの遺伝子発現を亢進させていることを明らかにした。この経路に対する特定の薬剤を投与することで、HFpEFの病態が改善することも示唆された。これらの結果から、TGM2―ヒストンセロトニル化経路は、DNAダメージ応答を介してHFpEFの病態形成に深く関与しており、HFpEFに対する新たな治療標的となり得る可能性が示された。(小河原 崚)

連絡先

ページの先頭へ戻る