第5回日本腫瘍循環器学会学術集会 若手研究奨励賞(臨床)優秀演題賞(令和4年9月受賞)

Nutrition risk index (NRI) によるがん治療関連心機能障害の予測

Nutrition risk index (NRI) によるがん治療関連心機能障害の予測

医療用白衣を着た男性のポートレート。背景は青色で、眼鏡をかけた真剣な表情をしています。

八重樫 大輝(やえがし・だいき)

医学部 循環器内科学講座 博士研究員

研究グループ

八重樫大輝 及川雅啓 横川哲朗 三阪智史 小林淳 義久精臣 中里和彦 石田隆史 竹石恭知

今回の受賞について

日本腫瘍循環器学会

日本腫瘍循環器学会は、がんと循環器の両者が重なった領域を扱う新しい臨床研究分野を腫瘍循環器学(Onco-Cardiology)と定義し、がん患者における循環器疾患の治療並びに心血管系副作用に対する最善の医療の確立へ向けた研究調査、知識の普及、啓発、学術集会の開催を行うことで学術を進歩向上させ、がん治療の適正化と質の向上を図り、広く医学の発展と国民の健康増進に寄与することを目的としています。学術集会は、年1回開催されています。

賞について

満40歳未満の発表者が対象です。学術集会への応募演題の中から、演題抄録を対象とした一次審査と講演による最終審査により選考されます。

概要

栄養指標の一つであるNutrition risk index (NRI)は多くの心疾患の予後と関連していますが、がん治療関連心機能障害(CTRCD)の発症との関係についてはほとんど知られていません。そこで我々は化学療法が施行される前のNRIが、アントラサイクリン系薬剤によるCTRCDの発症を予測する因子になるか検討しました。

対象は当院にてがん治療のためにアントラサイクリン系薬剤を初回使用した202例です。化学療法開始前のNRIを基準に2群(高NRI群、n=141 ; 低NRI群、n=61)に分け,化学療法前、3か月後、6か月後、12か月後の心機能の観察を行ないました。

がん種は乳がんや、血液腫瘍、婦人科腫瘍、骨軟部腫瘍などでした。両群間に化学療法前の心機能に有意差は認められませんでした。しかし化学療法開始6ヵ月後における低NRI群の左室駆出率(EF)は高NRI群に比べ有意に低値でした(63.1% vs. 64.0%, P=0.013)。化学療法開始から1年以内のCTRCD発症は、低NRI群では高NRI群よりも有意に高い頻度でした(14.8% vs. 3.5%,P=0.012)。多変量ロジスティック回帰分析の結果、化学療法前のNRI値はCTRCD発症の独立した予測因子であることが示されました。またROC解析ではNRIによるCTRCD発症を予測する感度は71.4%、特異度は70.7%であり、良好な予測因子である可能性が示されました。さらに累積アントラサイクリン投与量や、EF、高血圧の合併などの既知の予測因子を含む回帰モデルにNRIを加えると、CTRCDを予測するための回帰モデルがより精度の高いものになることが示されました。

以上から、化学療法前のNRIはアントラサイクリン系薬剤によるCTRCD発症の予測因子となることが示されました。

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