消化器内科学講座 冨樫一智 教授らによる大腸がんの再発リスクに関する研究論文が英文誌「Endoscopy」2026年8月号に掲載されました
大腸がん内視鏡治療後の再発リスクを機械学習で分類する評価方法を開発
福島県立医科大学会津医療センター消化器内科学講座の冨樫一智教授と、会津大学コンピュータ理工学部の周雪博士らの研究グループは、日本全国27施設が参加した多施設共同研究において、早期大腸がん(T1がん)の内視鏡治療後に追加手術を行わなかった患者さんの再発リスクを、機械学習を用いて分類する新たな方法を開発しました。
本研究成果は、消化器内視鏡分野を代表する国際医学誌「Endoscopy」2026年8月号に掲載されました。
Thieme E-Journals - Endoscopy / Abstract
研究の背景
近年、早期大腸がんは内視鏡治療によって根治できる患者さんが増えています。
一方で、がんの特徴から再発やリンパ節転移の危険性が高いと判断された場合には、追加の外科手術が推奨されることがあります。しかし、高齢や合併症などの理由から、追加手術を受けずに経過観察を行う患者さんも少なくありません。
こうした患者さんについては、どの程度再発する可能性があるのかを正確に評価する方法が十分に確立されておらず、再発リスクに応じた適切な経過観察方法の確立が課題となっていました。
研究の概要
本研究では、日本全国27施設から集積した、早期大腸がん(T1)の患者さん1,123例を対象として、教師なし機械学習(Unsupervised Machine Learning)を用いた解析を行いました。
その結果、患者さんを臨床病理学的な特徴の違いから3つのグループに分類することができました。
さらに、この分類結果をもとに、「がん細胞が粘膜下層へどの程度深く浸潤しているか」という浸潤距離と、「がんの肉眼形態(隆起型・表面型)」という2つの基本的な情報から、再発リスクを評価できる方法を開発しました。
この評価方法を用いることで、同じT1がんであっても、患者さんごとの再発リスクをより詳細に分類できる可能性が示されました。
今後の展望
現在、内視鏡治療後に追加手術を受けない患者さんについて、どのような頻度・方法で経過観察(サーベイランス)を行うべきかについては、明確な方針が十分に定められていません。
今回の研究では、従来から用いられている病理学的な評価に腫瘍の肉眼形態を組み合わせることで、再発リスクをより細かく層別化できる可能性が示されました。
本研究で開発された評価方法により、追加手術を受けない患者さんの経過観察やサーベイランス戦略の最適化、さらに患者さん一人ひとりの再発リスクに応じた個別化医療への応用が期待されます。
用語解説:T1がんとは
早期大腸がんは、がんが大腸の粘膜内にとどまる「粘膜内がん(Tisがん)」と、粘膜の下にある粘膜下層まで浸潤した「T1がん」に大きく分けられます。
粘膜内がんではリンパ節や他の臓器へ転移することはありませんが、T1がんではリンパ節転移や再発の可能性があります。
T1がんのリンパ節転移や再発に関係する主な危険因子としては、次のようなものが知られています。
- 粘膜下層へのがんの浸潤距離
- リンパ管や血管へのがん細胞の侵入(脈管侵襲)
- がん細胞の分化度
- がんの浸潤先進部にみられる「簇出(ぞくしゅつ)」
「簇出(ぞくしゅつ)」とは、がんの先端部分で、少数のがん細胞が小さなかたまりとなって周囲に広がる所見を指します。