教授挨拶

現在、日本人の2人に1人が悪性新生物(以後「がん」と書きます)に罹患するといわれており、がんは誰にでもおこりえる病気の一つとなっています。また、日本で亡くなったかたの3人に1人はがんがその死亡原因であり、がん診療のさらなる進歩が期待されています。
がん診療は大きく診断領域と治療領域にわかれます。
診断領域においては、これまでの画像診断技術の向上だけでなく、がん遺伝子変異や蛋白質過剰発現などのバイオマーカー診断や、多数の遺伝子変化を同時に評価する多遺伝子アッセイの導入、また分子プローブを用いた分子イメージングの進歩などがあります。
治療領域においても、がん治療の三本柱である手術/内視鏡切除、放射線治療、がん薬物療法のそれぞれについて、進歩とともに細分化され、より複雑になってきました。 たとえばがん薬物療法では、これまで殺細胞性抗がん薬(いわゆる抗がん剤です)が治療の中心でしたが、近年急速に増加してきた分子標的治療薬の登場により、治療適応や薬剤の選択、用量・用法の調整がとても難しくなってきました。また、分子標的治療薬にはそれぞれ特有の副作用があり、個々の患者さんに応じた適切な副作用対応が必要になっています。
さらに、がん患者さんの全人的(身体的、精神的、社会・経済的)苦痛に対して、支持療法を含む充分な対応・配慮を行うことが、がん治療の中で大きな割合を占めるようになってきています。
このように、がんに対する診断も治療も複雑になってきた現在、一つの科の医師のみでがん診療を行っていくことは不可能であり、各診療科の医師・看護師・薬剤師・ソーシャルワーカーをはじめとした多職種からなるチームを形成してがん診療を行うことが一般的になっています。
腫瘍内科医は、がん薬物療法の専門家ということだけでなく、多職種がん診療チームの中で、がん患者さんの総合診療医のような役割を果たすことが理想です。腫瘍内科の領域で先駆的立場にある米国では、1970年代という早い段階で腫瘍内科専門医の育成が始まり、現在では約1万人もの腫瘍内科専門医がいます。しかし、日本では、腫瘍内科専門医は2015年4月現在で1000人ほどとまだまだ少数であり、残念ながら米国のようにすべてのがん患者さんの診療にあたることはできません。
このような社会的背景の中、本学の腫瘍内科学講座が2014年9月に発足しました。