英国雑誌「Neuro-Oncology Advances」掲載(2026年4月)

Cerebrospinal fluid sPTPRZ detected with HNK-1 antibody as a practical biomarker for glioma diagnosis

HNK-1抗体により検出される脳脊髄液中のsPTPRZは、グリオーマ診断に有用な実用的バイオマーカー候補である

鳴瀬 悠(なるせ・ゆう)

脳神経外科学講座 大学院生

研究グループ

鳴瀬 悠1、藤井正純1、長井健一郎1、蛭田 亮1、坂上敏江2、古林拓留2、高橋一人2、飯島順子2、鈴木英明2、岡 佑香3、橋本優子3、服部香寿美4、金井数明4、郡山峻一5、齋藤太一5、村垣善浩5、川俣貴一5、篠山隆司6、安田 純7、宇月美和2、川口 寧8、川田健太郎9、山口芳樹10、郷 詩織11、荒川広夢11、梶 裕之11、北爪しのぶ2

1福島県立医科大学・脳神経外科学講座、2福島県立医科大学・保健科学部・臨床検査学科、3福島県立医科大学・病理病態学診断講座、4福島県立医科大学・脳神経内科学講座、5東京女子医科大学・脳神経外科、6神戸大学・脳神経外科、7宮城県立がんセンター、8東京大学医科学研究所、9産業技術総合研究所、10東北医科薬科大学、11名古屋大学iGCORE

概要

論文掲載雑誌:「Neuro-Oncology Advances」(2026年4月)


福島県立医科大学 脳神経外科学講座および保健科学部臨床検査学科を中心とする研究グループは、本学神経内科学講座、東京女子医科大学、神戸大学、名古屋大学iGCORE、宮城県立がんセンターと共同で悪性脳腫瘍の一種である神経膠腫(グリオーマ)について、「糖鎖」と呼ばれる分子構造に着目した新しい髄液検査法を開発しました。

この方法では、「抗HNK-1抗体」(東京化成株式会社)という糖鎖を認識する抗体を用いて、髄液中の特定の物質を測定することで、神経膠腫と原発性中枢神経リンパ腫(PCNSL)といった、診断上の鑑別が難しい脳腫瘍をより正確に識別できる可能性を示唆しました。

■ 背景:複雑な中枢神経疾患の鑑別における課題
脳の腫瘍は、MRIなどの画像検査で診断されますが、神経膠腫とリンパ腫などは見た目が非常によく似ており、区別が難しい場合があります。
現在、確実に診断するためには手術で腫瘍の一部を取り出す必要があり、患者さんに大きな負担がかかることが課題でした。

■ 研究の核心:糖鎖に着目した新しい検出手法
研究グループは、神経膠腫に多く存在するタンパク質「PTPRZ」と、それに結合する糖鎖構造「HNK-1」に注目しました(図1)。HNK-1という糖鎖は、特定のタンパク質に特徴的に付く目印のような構造です。
その結果、次のようなことが分かりました。

・髄液中のPTPRZは、HNK-1糖鎖を認識する抗体(抗HNK-1抗体)によって高感度に検出できる
・神経膠腫ではPTPRZが多く、原発性中枢神経リンパ腫では少ない
・この違いを利用することで、髄液から病気の判別を補助できる可能性

さらに、少量の髄液でPTPRZの量を測定できる検査法(サンドイッチELISA法)を開発し、86例の検体で検証した結果、

・感度:86%(見逃しにくさ)
・特異度:60%(誤診の少なさ)
と、一定の鑑別性能が確認されました(図2)。

また、一部の神経膠腫では、PTPRZとMET遺伝子の融合が見つかり、将来的に個々の患者に応じた治療(個別化医療)につながる可能性も示されました(図3)。

■ 今後の展望:より負担の少ない診断へ
この研究は、手術を行わずに髄液検査だけで医師の総合的判断を補助する手法として脳腫瘍を識別できる可能性を示す重要な成果です。現時点ではまだ研究段階であり、すぐに医療現場で使えるわけではありませんが、

・より多くの症例での検証
・検査キット化
・保険適用

などを目指して研究を進めていきます。将来的には、患者さんの負担を減らしながら、より正確な診断が可能になることが期待されます。本研究はAMED次世代がん医療加速化研究事業「グリオーマの診断マーカー実用化に向けた研究開発」の支援を受けています。

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 脳神経外科学講座
電話:大学代表024-547-1111
メールアドレス:neuro-s@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため一部全角表記しています)

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