英国雑誌「Cell Death & Disease」掲載(2025年11月)

MET signaling drives acquired resistance to erdafitinib in muscle-invasive bladder cancer cells

METシグナルは筋層浸潤性膀胱がんにおけるエルダフィチニブ耐性獲得を促進する

福島県立医科大学の腫瘍内科学講座主任教授、佐治重衡氏のポートレート。白衣を着用し、背景には書類や小物が並ぶ。

眞壁 俊太(まかべ・しゅんた)

泌尿器科学講座 病院助手

研究グループ

眞壁俊太¹²、星京香²、金子裕眠³、増石有佑⁴、八木沼恵¹、目黒了¹、小名木彰史¹、星誠二¹、秦淳也¹、伊藤浩美²、志村浩己³、小島祥敬¹、西田満²

1) 福島医大・泌尿器科学講座

2) 福島医大・生化学講座

3) 福島医大・臨床検査医学講座

4) 福島医大・衛生学・予防医学講座

 

概要

論文掲載雑誌:「Cell Death & Disease」(2025年11月28日)


FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)は、がんの増殖や進展に深く関与する受容体型チロシンキナーゼです。FGFR2またはFGFR3に変異を有する膀胱がん患者では、FGFR阻害薬エルダフィチニブ(Erdafitinib)が一定の治療効果を示すことが知られています。しかし、その奏効期間は比較的短く、治療を続けるうちに薬剤耐性が生じることが臨床上の課題となっています。一方で、FGFR1の過剰発現は、膀胱がんの中でも特に悪性度の高い筋層浸潤性膀胱がん(muscle-invasive bladder cancer: MIBC)に多く認められていますが、これまでMIBCにおいてエルダフィチニブが有効かどうか、また耐性獲得が起こるかどうかについては十分に解明されていませんでした。

本研究では、FGFR1を高発現するMIBC細胞を用いてエルダフィチニブの作用を解析しました。その結果、薬剤投与初期にはFGFR1–SHP2–ERKシグナル経路が抑制され、がん細胞のアポトーシス(細胞死)が誘導されることが分かりました。しかし、治療を継続するとMET遺伝子の増幅が生じ、MET–SHP2–ERKシグナル経路が活性化することで薬剤耐性を獲得することを明らかにしました。さらに、METのリガンドであり、MIBC組織に高濃度で存在することが知られている肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor: HGF)が、この耐性獲得を加速させることも確認しました。

これらの結果を踏まえ、MET阻害薬カプマチニブ(Capmatinib)をエルダフィチニブと併用したところ、MET経路の異常な活性化を抑制し、薬剤耐性を克服できることが分かりました。本研究は、FGFR1高発現MIBCにおけるFGFR阻害療法の適応可能性を示すとともに、FGFRおよびMETの両経路を同時に標的とする新たな治療戦略の有効性を示唆するものです。(眞壁 俊太)

 

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 泌尿器科学講座

電話:024-547-1111

講座ホームページ: https://www.fmu.ac.jp/education/medicine/department/urology/

メールアドレス: urol@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)

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