スイス雑誌「Frontiers in Immunology」掲載(2025年9月)

Essential roles of CTCF binding sites at TAD boundaries in modulating chromatin interactions and transcriptional regulation at the Ifng locus

インターフェロンガンマ遺伝子座のクロマチン相互作用及び転写調節におけるTAD境界内CTCF結合インスレーターの役割

福島県立医科大学の腫瘍内科学講座主任教授、佐治重衡氏のポートレート。白衣を着用し、背景には書類や小物が並ぶ。

武藤 憲哉(むとう・かずや)

救急医療学講座 助手

研究グループ

武藤憲哉¹ ²)、吉田大貴¹)、鈴木俊幸¹)、山本夏男³)、井上直和⁴)、関亦明子⁵)、伊関憲²)、関亦正幸¹)

1)福島県立医科大学医学部放射性同位元素研究施設

2)福島県立医科大学医学部救急医療学講座

3)仙台市保健所

4)福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所細胞科学研究部門

5)福島県立医科大学看護学部生命科学部門

概要

論文掲載雑誌:「Frontiers in Immunology」 (2025年9月26日)


感染症やがんに対する生体防御において、サイトカイン遺伝子の発現調節機構の解明は重要である。一方で、その異常な活性化はアレルギーや自己免疫疾患の病態形成にも深く関与する。本学放射性同位元素研究施設の研究グループは、ゲノム編集マウスの作製と次世代シークエンスを用いたゲノムワイドなエピゲノム解析により、サイトカイン遺伝子発現調節におけるクロマチン構造と転写因子の役割を解明した。

本研究では、インターフェロンガンマ(IFN-g)をコードする Ifng遺伝子座に焦点を当て、その転写調節におけるCCCTC-binding factor(CTCF)結合部位(CBS)の機能を解析した。特に、Ifng遺伝子座を挟む上流-70kbおよび下流+66kb のCBSに着目し、CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集によりそれぞれのCBSを欠損させたマウスを作製した。クリプトコッカス菌感染モデルやB16メラノーマモデルを用いた免疫応答解析、さらにRNA-seq、ChIP-seq、Hi-Cによるエピゲノム解析の結果、–70kb CBSの欠損はIfng遺伝子座の Topologically Associating Domain(TAD)構造およびエンハンサー–プロモーター間相互作用を破綻させ、Th1細胞におけるIFN-g発現を著しく低下させることが明らかとなった。一方、+66kb CBSの欠損は局所的なクロマチン相互作用に影響を及ぼしたが、Ifng転写やサイトカイン産生には大きな変化を与えなかった。その結果、–70kb CBSの欠損マウスでは、クリプトコッカス感染やB16メラノーマ肺転移への抵抗性の著しい低下が観察された。

これらの結果は、Ifng遺伝子座におけるCTCF依存的なTAD境界が、クロマチンアーキテクチャの階層的制御を通じてエンハンサー–プロモーター相互作用を成立させ、免疫応答を調節していることを示す。本研究は、TAD境界に位置するCTCF結合部位がサイトカイン遺伝子発現の精緻な制御に果たす役割を明らかにするとともに、クロマチン構造に基づくエピゲノム制御が炎症性疾患や自己免疫疾患における新たな治療標的となり得ることを示した。(武藤 憲哉)

 

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部放射性同位元素研究施設
電話:024-547-1673 (内線2821)

FAX:024-548-3075
講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/home/ricenter/ri/

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