米国科学誌「Hepatology Communications」掲載(2025年9月)

Identification of anti-DOK2 antibodies in patients with autoimmune hepatitis via a human protein microarray

ヒトタンパク質マイクロアレイを用いた自己免疫性肝炎患者における抗DOK2抗体の同定

福島県立医科大学の腫瘍内科学講座主任教授、佐治重衡氏のポートレート。白衣を着用し、背景には書類や小物が並ぶ。

阿部 和道(あべ・かずみち)

消化器内科学講座 准教授

研究グループ

阿部和道、和田淳、林学、菅谷竜朗、阿部直人、高畑陽介、藤田将史、高橋敦史、菅野有紀子、黒田聖仁、斎藤桂悦、野沢佳弘、右田清志、八橋弘、大平弘正 

概要

論文掲載雑誌:「Hepatology Communications」 (2025年9月22日)


 【背景】
自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis, AIH)は、免疫応答の破綻により肝細胞障害が持続する疾患です。診断においては抗核抗体(ANA)や抗平滑筋抗体(ASMA)が広く用いられていますが、いずれも疾患特異性に乏しく、補助的指標にとどまるのが現状です。そのため、AIHに特異的かつ病態と関連する自己抗体の同定が求められてきました。

【研究の目的と方法】
本研究では、福島医薬薬品関連産業支援拠点化事業にて開発されたヒトタンパク質マイクロアレイを用いた抗体プロファイリングにより網羅的にAIH患者血清から自己抗体を検出し、診断に寄与する疾患特異的な自己抗体を探索することを目的としました。このマイクロアレイではコムギ胚芽無細胞系で合成した抗原蛋白には細胞膜、細胞質、核内蛋白を含めた16,000種類以上のヒトcDNAを搭載しており、これまでに見出されなかった新規の自己抗体を検出できる可能性があります。探索コホート(AIH患者67例、健常対照25例)において候補抗原を同定後、ELISAにて抗体反応を定量化し、独立検証コホート(AIH患者123例、健常対照75例)で再現性を確認しました。対象となった血清サンプルはすべて免疫抑制療法開始前に採取されました。また、免疫染色により肝組織における抗原蛋白の発現を評価しました。

【結果】

·網羅的スクリーニングにより、Docking protein 2(DOK2)がAIH患者で特異的に反応する抗原として抽出されました。

·抗DOK2抗体価は探索・検証両コホートにおいてAIH群で有意に高値を示し、健常対照および他肝疾患群との差異は顕著でした(AUROC 0.87–0.90, p < 0.0001)。

·抗DOK2抗体価は血清IgG値および肝組織炎症活動度と正の相関を示し、IgG値は抗DOK2抗体高値の独立規定因子でした。

·肝組織免疫染色では、AIH症例の肝小葉内および門脈域にDOK2陽性細胞が検出されました。さらに、令和7年から本学に導入されたイメージングマスサイトメトリー(IMC)Hyperion XTiを用いて、高度多重解析を行いました。DOK2は門脈域にも発現していることが明らかになりました。さらにIMC解析により、DOK2は主にCD68陽性マクロファージの細胞質に発現しており、加えて門脈域に浸潤するCD3陽性T細胞にも検出されました(図2)。

【結論】
本研究は、抗DOK2抗体がAIHに特異的に出現し、血清IgG値や肝組織炎症と関連することを初めて示しました。抗DOK2抗体はAIHの新規バイオマーカーとして、診断補助のみならず病態活動性の評価に資する可能性があります。なお、本研究は本学が導入したHyperionXTiを用いて論文化した最初の研究であります。(阿部 和道)

図1: Visual Abstract

図2: IMC

 

 

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 消化器内科学講座
電話:024-547-1202

FAX:024-547-2055
講座ホームページ:https://www.intmed2.fmu.ac.jp/index.html

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