欧州糖尿病学会誌「Diabetologia」掲載(2025年11月)

Diverse Combination of Factors Associated With the Development of Diabetic Kidney Disease Among Data-Driven Diabetes Subtypes: Analysis of the J-DREAMS Registry

データ駆動型糖尿病サブタイプにおける糖尿病性腎臓病の発症関連因子の多様性:J-DREAMSレジストリ解析

医療白衣を着た男性のポートレート、青い背景の前で真剣な表情をしている。

渡邊 桐子(わたなべ・きりこ)

糖尿病内分泌代謝内科学講座 助教

大腸癌に関する研究を行う中嶋正太郎准教授のポートレート。

島袋 充生(しまぶくろ・みちお)

糖尿病内分泌代謝内科学講座 主任教授

研究グループ

渡邊 桐子¹、田辺 隼人¹,²、大杉 満³,⁴、川上 英良⁵,⁶、田中 健一⁷,⁸、風間 順一郎⁷,⁸、植木 浩二郎³,⁹、島袋 充生¹,²,⁸

1) 福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座

2) 福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科・総合内科・臨床感染症学講座

3) 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 糖尿病内分泌代謝科

4) 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 糖尿病情報センター

5) 千葉大学大学院医学研究院 人工知能(AI)医学

6) 理化学研究所 情報統合本部 先端データサイエンスプロジェクト

7) 福島県立医科大学 腎臓高血圧内科学講座

8) 福島県立医科大学 先端地域生活習慣病治療学講座

9)国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 糖尿病研究センター

 

概要

論文掲載雑誌:「Diabetologia」(2025年11月17日)


福島県立医科大学、国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所等の共同研究チームは、日本の代表的糖尿病データベースJ-DREAMSレジストリ https://www.j-dreams.jihs.go.jp/で、(機械学習に基づく)データ駆動型糖尿病クラスター分類が、糖尿病腎臓病の発症や増悪(透析)リスクを予測できることを解明し、欧州糖尿病学会が発行する国際的医学雑誌「Diabetologia」に掲載されました。

糖尿病は現在、世界中で多くの人が患う病気です。糖尿病が長く続くと、様々な合併症が起こりますが、特に深刻なのが糖尿病性腎臓病です。糖尿病性腎臓病は、腎機能(尿を作るはたらき、eGFR60未満で診断)が、10-20年の経過で悪くなり、透析の最大の原因です。

現在、糖尿病と診断された時点で、将来、腎臓の機能がどの程度悪くなるか予測することはできません。健診や病院でeGFR低下(30未満は5年以内にほぼ透析導入)や蛋白尿がわかったときは、既に腎機能低下は進行しており、透析導入が防げないこともしばしばです。そこで、この研究では「データ駆動型糖尿病クラスター分類」という新しい方法を使って、日本人の糖尿病をもつかたの腎臓病リスクを予測できるか調べました。

この研究は、J-DREAMSレジストリの1万人以上の糖尿病の方で、人工知能の技術(機械学習)を使い、5つのサブタイプに分類できることを確認しました。若い年齢で発症し自己免疫が関わるSAID(重症自己免疫糖尿病)、インスリンの分泌する能力が著しく低下したSIDD(重症インスリン不足糖尿病)、インスリンの効果が悪く肥満傾向があるSIRD(重症インスリン抵抗性糖尿病)、軽度の肥満があるが合併症が起こりにくいMOD(軽症肥満関連糖尿病)、そして高齢で発症するMARD(軽症加齢関連糖尿病)の5つです。

最も重要な発見は、SIRDで腎臓病の発症や増悪リスクが最も高いということでした。それぞれのサブタイプで腎臓病の発症要因が異なることもわかりました。つまり、同じ糖尿病でも、サブグタイプによって注意すべき点が違うということです。

この研究の意義は、大規模な日本人集団で、従来「糖尿病」という一つの病気として扱っていたものを、サブタイプに分類することで、それぞれに適した予防策や治療法を提供できる可能性を示したことです。この分類方法は、健診や病院など実際の医療現場で活用できる可能性があります。患者さん一人ひとりの糖尿病のサブタイプを診断早期に判定することで、その人に最も適した予防策や治療法を選択できるようになるかもしれません。これは「個別化医療」と呼ばれる、患者さん個人の特性に合わせた医療の実現に大きく貢献する可能性があります。この分類法を実際の診療に応用するためには、さらなる研究と検証が必要ですが、糖尿病治療の個別化に向けた重要な一歩となることが期待されます。(渡邊 桐子)

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 糖尿病内分泌代謝内科学講座

渡邊桐子、島袋充生

電話:024-547-1306

FAX:024-547-1311
講座ホームページ:http://fmudem.fmu.ac.jp/

メールアドレス:dem@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため一部全角表記しています)

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