「Cells」掲載(2025年8月オンライン)
Residual Tumor Resection After Anti-PD-1 Therapy: A Promising Treatment Strategy for Overcoming Immune Evasive Phenotype Induced by Anti-PD-1 Therapy in Gastric Cancer
抗PD-1療法後の残存腫瘍切除術:胃癌における抗PD-1療法によって惹起される免疫逃避機構を克服するための有望な治療戦略

松井田 元(まついだ・はじめ)
消化管外科学講座 助手

三村 耕作(みむら・こうさく)
消化管外科学講座 准教授
研究グループ
松井田元、三村耕作、中嶋正太郎、齋藤勝治、林下宗平、滝口千晶、楡井東、菊池智宏、花山寛之、岡山洋和、齋藤元伸、門馬智之、佐瀬善一郎、河野浩二
概要
論文掲載雑誌:「Cells」(2025年8月6日・オンライン版)
切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌に対する標準治療として、化学療法と免疫療法(抗PD-1療法)を組み合わせた治療が施行されています。しかし、その奏効率や生存期間の延長効果は依然として限定的であり、抗PD-1療法が腫瘍に及ぼす影響、特に同治療に伴う腫瘍免疫微小環境の変化については十分に解明されていません。また、化学療法が著効した症例ではconversion手術により長期予後が期待されると報告されていますが、治療奏効後に同じ化学療法を継続するべきか、あるいは腫瘍切除術を選択するべきかについて、エビデンスのある結論は出ていません。
本研究では、切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌患者を対象として、化学療法または抗PD-1療法後の腫瘍切除術の臨床効果と腫瘍切除標本における腫瘍免疫微小環境の特徴を解析しました。その結果、化学療法または抗PD-1療法後に腫瘍切除を行った患者は、腫瘍切除が施行されなかった患者と比較して有意に生存期間が延長していました。さらに、抗PD-1療法後の腫瘍細胞では、化学療法後と比べて、抗PD-1療法の効果発現に不可欠である腫瘍細胞上のHLA class I発現が著明に低下しており、このHLA class I発現低下はTGF-βシグナル伝達経路の活性化と関連している可能性が示されました。
以上の結果から、切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌において、抗PD-1療法後の腫瘍切除術は予後を改善すること、抗PD-1療法後に腫瘍細胞の免疫逃避が誘導されていることが示唆されました。したがって、抗PD-1療法後に腫瘍切除術が可能となった場合、腫瘍切除術は有望な治療戦略となり得る可能性があります。今後、抗PD-1療法後の腫瘍免疫微小環境の変化を考慮した新たな治療戦略の確立に期待が持たれます。(松井田 元)
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