米国糖尿病学会誌「Diabetes Care」掲載(2025年8月)
Prediction of sarcopenia onset in type 2 diabetes using urinary titin levels: A Japanese prospective cohort study
尿中タイチンを用いた2型糖尿病におけるサルコペニア発症予測:日本人前向きコホート研究

田辺 隼人(たなべ・はやと)
糖尿病内分泌代謝内科学講座 准教授

島袋 充生(しまぶくろ・みちお)
糖尿病内分泌代謝内科学講座 主任教授
研究グループ
田辺 隼人¹ ², 滝口 善規¹, 堤 理恵³, 城間かおり¹, 兵藤 瑞紗³, 和泉 優奈³, 野村 和弘³, 松尾 雅文³, 阪上 浩³, 島袋 充生¹ ²
1) 福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座
2) 福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科・総合内科・臨床感染症学講座
3) 徳島大学大学院 医歯薬学研究部 代謝栄養学分野
4) 神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科
概要
論文掲載雑誌:「Diabetes Care」(2025年8月25日)
福島県立医科大学、徳島大学、神戸大学の共同研究チームは、2型糖尿病患者において「尿中タイチン」が将来のサルコペニア発症を早期に予測できるバイオマーカーとなり得ることを、前向きコホート研究により明らかにしました。本研究成果は、米国糖尿病学会が発行する国際的医学雑誌「Diabetes Care」に掲載されました。
サルコペニアは「加齢や慢性疾患によって筋肉量・筋力・身体機能が低下する状態」であり、フレイル(虚弱)や転倒、要介護のリスクを高めることが知られています。糖尿病では、代謝異常や慢性炎症の影響によってサルコペニアの発症が加速することが知られていますが、その発症を予測する信頼性の高いバイオマーカーは確立されていませんでした。
共同研究チームは、筋肉の構造を支える巨大なタンパク質である「タイチン」に着目しました。タイチンは筋線維の収縮や構造維持に不可欠な成分であり、筋損傷や萎縮が生じると血液中に放出されて尿中に排出されます。これまでタイチンの尿中濃度は、筋ジストロフィーや拡張型心筋症など比較的まれな疾患のバイオマーカーとして知られていましたが、糖尿病などcommon diseaseでの筋損傷やサルコペニアとの関連性は不明でした。
本研究では、福島DEMコホートに登録された2型糖尿病でサルコペニアのない444名を対象に、尿中タイチン濃度を測定し、その後に約3年間にわたって毎年サルコペニアの評価を行いました。サルコペニアの診断は、骨格筋量・握力・歩行速度の3つの要素を用いたアジアサルコペニア診療ガイドライン2019(AWGS2019)に基づいて判定されました。
追跡期間中、41名(9.2%)が新たにサルコペニアを発症、そのうち尿中タイチン濃度が高い群でサルコペニア発症率が高いこと、尿中タイチン濃度が独立した予測因子であることが示されました(標準偏差ごとの調整ハザード比1.37, 95%信頼区間: 1.05–1.77)。サルコペニアの構成要素のうち、特に筋力(握力)低下とタイチンが強く関連していることがわかり、早期の筋機能低下を反映している可能性が示唆されました。
さらに、時間依存性ROC解析では、1年後のサルコペニア発症予測能は、尿中タイチン単独でAUC=0.80と良好であり、年齢・性別・BMIなど臨床情報の追加でAUC=0.94まで精度が向上しました。また、年齢や肥満度、血糖コントロール状態、腎機能の違いにかかわらず、一貫して尿中タイチンのサルコペニア予測能が高いことも確認されました。
本研究は、2型糖尿病をもつ方々の「筋力低下の兆し」を、尿を用いた簡便かつ非侵襲的な方法で早期に捉えることが可能であることを示し、今後の臨床応用に向けた重要な一歩となる成果です。今後は、多施設での大規模研究による外部検証や、タイチン測定を用いた適切な予防、介入戦略、そしてこれらによる、サルコペニアの発症予防効果の検証が期待されます。(田辺 隼人)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 糖尿病内分泌代謝内科学講座
電話:024-547-1306
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講座ホームページ:http://fmudem.fmu.ac.jp/
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