英国雑誌「eLife」掲載(2025年7月)
Acquisition of auditory discrimination mediated by different processes through two distinct circuits linked to the lateral striatum
背側線条体の2つの異なる神経回路を介した聴覚弁別の学習獲得プロセス
西澤 佳代(にしざわ・かよ)
生体機能研究部門 助教

小林 和人(こばやし・かずと)
生体機能研究部門 教授
研究グループ
福島県立医科大学医学部生体機能研究部門
助教 西澤 佳代、特任助教 瀬戸川 将(現:大阪公立大学 大学院医学研究科 神経生理学 特任講師)
特任助教 酒寄 信幸(現:広島大学 大学院医系科学研究科 准教授)、教授 小林 和人
国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター 生体機能動態イメージング研究チーム
研究員 岡内 隆、研究員 胡 迪(現:京都橘大学 健康科学部 臨床検査学科 助教)
チームリーダー 崔 翼龍(兵庫医科大学医学部 脳腸相関機能解析学 特任教授)
国立研究開発法人理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター
チームリーダー 尾上 浩隆(現:神戸学院大学, 薬学部, 教授)
国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター 健康・病態科学研究チーム
副チームリーダー 和田 康弘
国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門
主任研究員 疋島 啓吾
大阪公立大学大学院医学研究科神経生理学
助教 宮脇 寛行(現:同大学 講師)、講師 北西 卓磨(現:東京大学 大学院総合文化研究科 准教授)、教授 水関 健司
概要
論文掲載雑誌:「eLife」(2025年7月11日)
私たちの日常生活における多くの行動──たとえば、ドアを開ける、歯を磨く、食器を片づけるといった一連の動作──は、意識することなく自然に行うことができます。こうした無意識的な行動は、感覚刺激と行動の結びつき(連合)を繰り返し経験することで学習され、やがて「習慣」として脳内に定着していくと考えられています。このような連合学習は、環境に適応しながら行動を選択・制御するうえで脳の極めて重要な機能です。しかし、これらの学習過程が脳内でどのように進行し、どの神経回路が関与しているのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。
我々の研究グループは、ラットが自由に行動しながら音に反応して報酬を得る課題を用い、その最中の脳全体の代謝活動や神経細胞の個々の活動を詳細に記録・解析しました。その結果、感覚情報と行動の連合学習が、機能分担された複数の背側線条体内(注1)の回路の機能によって達成されていることを初めて明確に示しました(図1)。さらに、線条体前部の神経回路は、音などの感覚刺激と行動を結びつけて学習を促進する機能を持ち、線条体後部の回路は、連合記憶の保持に関与していることを示しました(図2)。
本成果は、「行動がどのように身につき、習慣として定着していくのか」という、私たちの行動の根幹を支える脳の仕組みを理解するうえで重要な手がかりとなります。本研究により明らかとなった神経回路の働きは、依存症や強迫症など、行動の制御に関わる神経・精神疾患の発症メカニズムの理解にもつながる可能性があり、今後はその機能異常が病態にどのように関与するのかを明らかにすることで、新たな治療法の開発への応用が期待されます。(西澤 佳代)
本研究成果は、英国の科学誌「eLife」2025年7月号に掲載されました。
(注1)大脳基底核を構成する主要な脳部位のひとつで、運動制御や学習、行動選択、報酬処理などに関与しており、特に背側線条体は、習慣形成や刺激反応学習に重要な役割を果たすと考えられています。
連絡先
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