米国科学誌「iScience」掲載(2025年7月)
Distinct roles of two thalamostriatal systems in visually-triggered decision-making in common marmosets
マーモセットの意思決定を制御する視床線条体入力

加藤 成樹(かとう・しげき)
生体機能研究部門 准教授

小林 和人(こばやし・かずと)
生体機能研究部門 教授
研究グループ
福島県立医科大学医学部生体機能研究部門
准教授 加藤 成樹、技術員 菅原 正晃、教授 小林 和人
北海道大学大学院医学研究院解剖学分野
准教授 山崎 美和子、教授 渡辺 雅彦
京都大学ヒト行動進化研究センター
助教 井上 謙一、教授 中村 克樹、教授 高田 昌彦
生理学研究所生体システム研究部門
助教 纐纈 大輔、助教 知見 聡美、教授 南部 篤
概要
論文掲載雑誌:「iScience」(2025年7月18日)
運動・認知・情動などさまざまな高次機能は、脳を構成する神経のネットワークがその活動を制御することによって精密にコントロールされている。特に、哺乳類で大きく進化した大脳皮質は基底核と呼ばれる辺縁系を含む大脳の中心的な構造体に連絡を送り、その機能障害は精神神経疾患の病態生理と密接に関連している。マウスやラットを用いた最近の研究から、感覚情報を大脳皮質から基底核に中継する視床、視床から基底核の一部である線条体に連絡するネットワークが、学習過程、行動の切り替え、認知・運動機能障害の回復に重要な役割を果たすことが示唆されている。この経路はパーキンソン病でも部分的に変性していることが報告されており、その病態との関係が疑われているものの解明はされていない。
本研究では、はじめにマーモセットにおける視床と線条体の解剖学的な結合関係を独自に開発した逆行性ベクターを用いて解析し、視床の束傍核(Pf)と正中中心核(CM)の神経細胞が線条体を構成する尾状核(Cd)と後部被蓋野(Pu)にそれぞれ神経連絡していることを確認した。次に、PfからCdおよびCMからPuに送る神経連絡を選択的に免疫毒素によって除去し、視覚刺激を手がかりとした弁別学習および手指の運動技能学習試験を実施した。その結果、Pf-Cd経路を除去した動物は、弁別学習を獲得した後、正解を反転させた逆転期における学習が障害された。一方、CM-Pu経路を除去した動物では、弁別学習の獲得が障害されたが、逆転期には影響は見られなかった。運動技能学習に関しては、どちらの経路を除去しても変化は見られなかった。これらの結果は、感覚刺激を手がかりとした学習の成立過程における意思決定の際に、Pf-Cd経路とCM-Pu経路がそれぞれ異なる役割を担うことを示唆している。
運動機能障害を主症状とするパーキンソン病では、認知機能の低下が併発することが知られている。また、パーキンソン病患者の死後脳剖検から、視床を構成する神経細胞が欠落することが報告されている。今回の研究により、視床の神経細胞の認知機能への関与が明らかとなり、このことはパーキンソン病などの疾患の病態解明につながるとともに、今回ターゲットとした2つの神経回路の機能を制御する薬剤を探索するなど、病態の改善につながる新薬開発への可能性が期待される。
本研究成果は、米国科学雑誌「iScience」(2025年7月18日号)に掲載されたのに先立って、オンライン版(2025年6月30日)に掲載されました。(加藤 成樹)
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