米国雑誌「The Journal of Immunology」掲載(9月15日号)

Cutting Edge: Role of MASP-3 in the physiological activation of factor D of the alternative complement pathway

補体第二経路成分であるD因子の生理学的な活性化におけるMASP-3の役割

医学部の大学院生である林学さんのポートレート。眼鏡をかけ、スーツ姿で真剣な表情を浮かべている。

林 学(はやし・まなぶ)

医学部 免疫学講座 大学院生

医学部の講師、町田豪氏のポートレート。白いシャツを着て、真剣な表情でカメラを見つめている。

町田 豪(まちだ・たけし)

医学部 免疫学講座 講師

医学部免疫学講座の教授、関根英治氏のポートレート。

関根 英治(せきね・ひではる)

医学部 免疫学講座 教授

研究グループ

林学1,2、町田豪1、石田由美1、尾形裕介1、大森智子1、高住美香2、遠藤雄一1、鈴木俊幸3、関亦正幸3、本間好4、伊川正人5、大平弘正2、藤田禎三6、関根英治11: 福島県立医科大学・免疫学講座2: 福島県立医科大学・消化器内科学講座3: 福島県立医科大学・放射性同位元素研究施設4: 福島県立医科大学・生体物質研究部門5: 大阪大学・微生物病研究所6: 福島県立総合衛生学院

概要

論文掲載雑誌:「The Journal of Immunology」(9月15日号)

補体系は活性化することで補体成分を病原微生物に結合し、生体内からの病原微生物の排除にはたらく自然免疫機構です。医学部 免疫学講座 林学大学院生(現消化器内科学講座助手)、町田豪講師、関根英治教授らは、補体系の活性化における2つの補体因子MASP-1・MASP-3の役割を明らかにしました。

補体系は、体内に侵入した病原微生物に対して活性化することで補体成分を結合し、病原微生物を「異物」として標識化(オプソニン化)します。その結果、好中球やマクロファージといった食細胞は、病原微生物を効率よく貪食処理できるようになり、さらに補体系は補体成分の結合をきっかけに、病原体を直接破壊します。

補体系は、古典経路・レクチン経路・第二経路という3つの異なる経路を介して活性化されます。これまで我々の研究グループは、 Masp1 遺伝子から転写される2つのセリンプロテアーゼMASP-1・MASP-3が、レクチン経路と第二経路の活性化に重要な役割を担う補体因子であることを、 Masp1 遺伝子ノックアウト(MASP-1/MASP-3同時欠損)マウスを用いて明らかにしてきました。しかし、この2つの補体因子の相互作用や、補体経路の活性化における個々の役割分担が不明のままでした。

今回我々は、CRISPR/Cas9システムを用いて Masp1 遺伝子をゲノム編集し、MASP-1単独欠損マウスとMASP-3単独欠損マウスを新たに作製し、解析を進めました。その結果、MASP-1とMASP-3は生体内で相互作用せず、MASP-1はレクチン経路の活性化に、MASP-3は第二経路の活性化に独立して機能することが世界で初めて明らかになりました。同一の Masp1 遺伝子から転写されるMASP-1とMASP-3は、これまで生体内では相互作用しながらレクチン経路と第二経路の活性化に共に関与するとされてきましたが、その概念は本研究により大きく修正されました。さらに本研究では、MASP-3が生体内で常に活性化型として第二経路の補体D因子の活性化に作用することが示され、第二経路の補体因子としてのMASP-3の位置付けが明確に示されました。

第二経路は補体の活性化を増幅するはたらきがあり、自己免疫疾患や加齢黄斑変性、脳梗塞や心筋梗塞後の虚血再灌流障害、糸球体腎炎など、多くの炎症性疾患で増悪因子として作用しますが、その活性化を抑える治療法は確立されていません。MASP-3が鍵をにぎる第二経路の活性化のメカニズムを明らかにした本研究の成果は、それらの炎症性疾患に対する新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

なお本研究は、免疫学における特に重要な最新の研究成果(Cutting edge論文)として、The Journal of Immunology誌(9月15日号)の巻頭に掲載されました。

詳細及び各お問合せについては、下記のプレスリリースをご覧ください。

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