第62回日本肝臓学会総会 The Best Abstract of JSH62(令和8年6月受賞)
自己免疫性肝疾患に共通する疾患感受性遺伝子SH2B3に由来する発症機序の解明
人見 祐基(ひとみ・ゆうき)
生体物質研究部門 准教授
今回の受賞について
日本肝臓学会
日本肝臓学会は、50年余の歴史をもち、現在は約12,000人を擁する組織です。肝臓学に関する研究の発表・連絡、知識の交換等を行うことにより、肝臓学に関する研究の進歩、普及を図り、わが国における学術の発展に寄与することを目的としています。主な事業内容は以下の通りです。
- 1.学術集会の開催、学術誌・学術図書の発行、研究の奨励、研究業績の表彰等による肝臓学に関する研究及び調査等の推進。
- 2.肝臓学に関する生涯学習の推進と肝臓専門医の育成による国民の健康増進への寄与。
- 3.関連学術団体等との連絡及び協力による肝疾患の診断・治療に関する助言。
- 4.国民および医療従事者への肝疾患の診断・治療に関する普及。
- 5.その他、この法人の目的を達成するために必要な事業。
賞について
第62回日本肝臓学会総会において、一般演題の中から優れた8演題が「The Best Abstract of JSH62」として選出されました。
概要
自己免疫性肝疾患である原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、自己免疫性肝炎(AIH)を対象として、疾患の罹りやすさ(疾患感受性)と関連する遺伝子領域を網羅的に探索する手法であるゲノムワイド関連解析(GWAS)により、多数の疾患感受性遺伝子領域が報告されてきました。ただし、各疾患の発症における遺伝的構造の特徴や、三疾患に共通する遺伝要因に起因する発症機序については不明であることから、本研究ではその解明を試みました。
まず、各疾患における疾患感受性遺伝子領域のうち、HLA class II、CD28/CTLA4、SH2B3は三疾患すべてに共通していました。その中で、遺伝要因に起因する発症機序が不明なSH2B3の近傍に位置するすべての遺伝的バリアントの中から、各種データベースや予測ツールを用いたin silico解析により、発症の原因となる遺伝的バリアントとしてrs3184504を同定しました。次に、ゲノム編集技術であるプライム編集を活用してrs3184504をヒトB細胞株RajiのゲノムDNAにノックインしたゲノム編集株を作製し、TGFβによる刺激後に内在性遺伝子発現量をリアルタイムRT-PCR法にて定量したところ、SH2B3発現量の減弱が疾患リスクアレルによって亢進していることが分かりました。さらに、PBC患者の肝生検組織を用いたトランスクリプトーム解析(RNA-seq法)の結果、健常者と比較して、PBC患者におけるSH2B3遺伝子発現量が減弱していました。
本研究により、rs3184504のリスクアレルによるSH2B3遺伝子発現量の減弱を原因とした免疫異常が、遺伝要因として自己免疫性肝疾患の発症に影響を与えるとともに、SH2B3の発現量がこれらの疾患の病態を左右する可能性が示唆されました。SH2B3やその関連分子は、自己免疫性肝疾患の治療標的や、進展および重症度の予測マーカーとなる可能性があります。(人見祐基)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部附属生体情報伝達研究所 生体物質研究部門
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