日本肺癌学会2025年度WCLCトラベルグラント(令和7年11月受賞)

Tertiary Lymphoid Structures in the Tumor Micro Immune Environment of EGFR Positive Lung Cancer Are Associated Prognosis

EGFR陽性肺癌の腫瘍微小環境におけるTLSは予後に関連する

福島県立医科大学の助手、小河原崚氏のポートレート写真。白衣を着て微笑む姿。

山口 光(やまぐち・ひかる)

呼吸器外科学講座 大学院生

研究グループ

Hikaru Yamaguchi

今回の受賞について

日本肺癌学会

肺癌及びこれに関する領域の研究の進歩ならびに知識の普及をはかり、患者さんをはじめ広く人類の健康と福祉の増進に寄与することを目的に、1960年に発足しました。正会員だけでも7,000人以上の会員を有し、肺癌領域では国内最大の学会です。

賞について

40歳未満の若手会員を対象に、国際力を培い、海外で活躍する意欲を醸成しキャリアアップの一助とすること、最新の診療・研究成果の把握を本邦にて実践することにより、肺がんの進歩普及、発展に貢献すること、といった人材育成の観点から設けられた若手向けトラベルグラント事業です。今回は、スペイン バルセロナで2025年9月6~9日に開催された世界肺癌会議2025(IASLC 2025 World Conference on Lung Cancer (WCLC 2025))への参加・発表が対象となりました。

概要

我々はこれまで肺癌腫瘍微小免疫環境について研究を重ねてきた。しかしながらEGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける腫瘍微小免疫環境に関してはまだ不明な点が多い。そこで当院におけるEGFR遺伝子陽性肺がんの腫瘍微小免疫環境に関して検討を行った。

2007年1月から2015年12月までに当院で手術を施行し、EGFR遺伝子変異陽性であり、さらに三次リンパ様構造(TLS)の検討を行った非小細胞肺癌症例を対象とした。臨床所見を後方視的に検索し、手術で摘出した検体を免疫染色で評価した。TLSに関してはPNAd陽性の高内皮細静脈を含んだリンパ球の集団とした。Primary EndopointはDFSとした。

症例は213例で、年齢の中央値は67歳(37~90歳)、男性34%、女性66%、喫煙歴は62例で認めた。組織型としては2例扁平上皮癌、2例腺扁平上皮癌で、他は腺癌であった。StageⅠが172例、Ⅱが13例、Ⅲが20例、Ⅳが8例であった。L858Rが132例、Exon19 delが81例であった。TLSの高発現はL858R陽性症例で75例(57%)、Exon19 del陽性症例では31例(37%)(P=0.011)で優位に差がみられた。TLSの発現とStageには優位な差はみられなかった。EGFR遺伝子変異と他遺伝子共変異の発現はTLSやDFSに差は認められなかった。DFSは全例で優位にTLS Highにおいて有意であった(P=0.028)。Stage Iでは明らかな違いはなかったが、StageⅡ以上においてはTLS 高発現群の方が良好な傾向がみられた。 再発後治療群においてもTLS Highにおいて治療効果の延長がみられた。DFSに関して単変量、多変量解析を行い、p-StageとTLSが独立した予後予測因子であった。

L858R陽性肺癌の方がTLSがより高発現である報告はあるが、EGFR陽性肺癌においてTLSがDFSと関連したとする報告は既報ではまだない。Exon19delの方がPFSやTKI治療効果が良好であったとする報告は散見される。一方でATTLAS試験ではICIの治療効果はL858Rの方が高い傾向にある報告もある。TKI治療は腫瘍微小環境に影響を与えHot tumorへと変化させることが知られている。本検討でEGFR遺伝子変異の違いが腫瘍微小環境、とくにTLSの発現に関連し、TKIやICIの治療効果にも影響する可能性が示唆された。(山口 光)

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 呼吸器外科学講座

電話: 大学代表024-547-1111(代)

FAX: 024-548-2735

講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/education/medicine/department/chestsurg/

メールアドレス: chest@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため一部全角表記しています)

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