第57回日本臨床分子形態学会 論文賞(2025年11月受賞)

Characteristics of peripheral blood mononuclear cells and potential related molecular mechanisms in patients with autoimmune hepatitis: A single-cell RNA sequencing analysis

自己免疫性肝炎患者における末梢血単核球の特徴と関連する分子メカニズムの解明:シングルセルRNAシーケンス解析による検討

阿部 和道(あべ・かずみち)

消化器内科学講座 准教授

研究グループ 

阿部和道 阿部直人 菅谷竜朗 高畑陽介 藤田将史 林学 高橋敦史 大平弘正

今回の受賞について

【日本臨床分子形態学会】

日本臨床分子形態学会は、1968年に「日本臨床電子顕微鏡学会」として設立され、電子顕微鏡を中心とする形態学的解析の学術発展を担ってきました。その後、分子生物学的手法や画像解析・マルチオミクスを含む新しい研究領域の拡大に伴い、2005年に現在の名称へ改称し、より広範な分子形態学研究を推進する学会へと発展しました。機関誌は、創刊以来「Medical Electron Microscopy」として発行されていましたが、学会の改組と歩調を合わせ、2005年より「Medical Molecular Morphology(MMM)」へ改題され、分子形態解析を中心とした最新の研究成果を世界へ発信しています。本学会は、形態学と分子生物学を融合した先端的アプローチにより、病態解明・診断・治療の進歩に貢献する専門家が集う学術団体です。

【賞について】

日本臨床分子形態学会では、前年度に発行された学会誌 「Medical Molecular Morphology(MMM)」に掲載された論文の中から、学会賞審査委員会および理事会により特に優れた研究と認められたものを 「論文賞」 として表彰しています。本賞は、分子形態学分野の発展に寄与する質の高い研究成果を顕彰し、学術的向上を促すことを目的としています。 

概要

本研究では、自己免疫性肝炎(AIH)における末梢免疫プロファイルの異常を明らかにするため、AIH 患者 4 例および健常対照 4 例から得られた末梢血単核球(PBMC)に対してシングルセル RNA シーケンス(scRNA-seq)解析を行った。

計 7,000 例以上の single-cell transcriptomes を取得し、標準化ワークフローに基づくクラスター同定および発現変動遺伝子(DEG)解析を実施したところ、monocyte および NK cell クラスターで顕著な発現変動が認められ、前者では 87 遺伝子の上方変動と 12 遺伝子の下方変動、後者では 101 遺伝子の上方変動と 15 遺伝子の下方変動が同定された。

さらに、GO(Gene Ontology)enrichment analysis により、antigen processing and presentation、IFN-γ–mediated signaling pathway、neutrophil degranulation/activation といった免疫関連の主要な生物学的プロセスが有意に enriched されており、AIH における自然免疫と獲得免疫の相互作用が亢進し、炎症応答を増幅する分子基盤が形成されていることが示唆された。

これらの知見は、AIH 病態の形成において monocytes と NK cells が中心的な役割を担う可能性を裏付けるものであり、将来的な治療標的となり得る分子経路を提示する重要な研究成果である。(阿部 和道) 

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 消化器内科学講座
電話:024-547-1202

FAX:024-547-2055
講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/education/medicine/department/intmed2/

メールアドレス:k-abe@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため一部全角表記しています)

ページの先頭へ戻る