研究概要

Ⅰ. 唾液腺傷害へのアプローチ

唾液には消化作用のほか、潤滑作用、自浄作用、味物質を味蕾に届ける役割、抗菌作用などがあり、分泌が低下すると、うまく話すことができなくなったり、味を感じにくくなったり、感染症にかかりやすくなったりと、生活に支障をきたします。

唾液分泌障害は、水分の摂取不足、加齢や全身性の病気のほか、がん治療の副作用でも起こることがあります。特にがん治療による唾液分泌障害は、治療後も影響が長引くため、予防によってがんサバイバーが少しでも快適な生活を送れるような支援策を考える必要があります。

当研究室では、放射線によって誘発される唾液腺傷害をマウスで再現しました。マウスの唾液腺部位に放射線照射を行うと、唾液の分泌が低下します。また、放射線の影響で、唾液腺細胞が膨化したり、核が大きくなったりする現象が観察されます。このマウスモデルを使用して、唾液腺を防護する方法を探索していきます。

図1. 放射線照射後の唾液流量測定 マウスの頸部に放射線を照射した後に、唾液流量を測定(右図)すると、10Gy以上の照射で唾液流量が低下します(左図)。これは、放射線照射後8週間目の結果ですが、唾液流量が元に戻ることはありません。
図2. 放射線照射後の唾液腺の組織形態の観察 上段はマウスの正常な唾液腺組織です。マウスの頸部に放射線を照射した8週間後に、唾液腺の組織形態を観察すると、放射線照射した場合(下段)、細部の膨化や核が大きくなったりする現象(矢頭)がみられます。Eの図は、Dの黄色枠部分を拡大した写真です。

Ⅱ. 唾液腺細胞の培養系構築と唾液腺細胞への分化メカニズム

唾液腺細胞は体外での培養が困難でしたが、当研究室では、マウス胎児からの顎下腺と、がん治療時に特にその機能障害が問題となる耳下腺の単層培養に成功しています。

唾液腺の培養細胞は、唾液腺細胞への分化メカニズムや放射線による唾液腺傷害メカニズムの解明のほか、唾液腺防護剤のスクリーニングや新規ケアの検証などにも使用します。

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